パーキンソン病治療薬のレボドパ(L-ドパ)を摂取した患者は例外なく失望することになる。最初の「蜜月」期間には身体の震えやバランスを保てないなどの問題が改善するが、時とともに薬の効果が小さくなっていくのだ。また大量の投与が必要な場合もあり、1日数時間、ほとんど動けない麻痺状態になる患者もいる。
バイオテック企業のボイジャー・セラピューティクス(本社マサチューセッツ州ケンブリッジ)は、意外な方法でL-ドパの効果を拡大できるのではないかと考えている。脳手術とDNAの注入に同意した患者に、現在、遺伝子療法を活用するアイデアを試しているところだ。
パーキンソン病は、脳内でドーパミンを生成しているニューロンが壊死することで起き、身体の動きに症状が表れる。ボクシングの王者モハメド・アリや、俳優のマイケル・J・フォックスもこの症状に悩まされており、フォックスの設立した慈善団体がボイジャーの実験的な治療に資金を拠出している。
パーキンソン病の原因はいまだに詳細がわかっていないが、薬の効果が低下する原因はわかっている。L-ドパをドーパミンに変換するのに必要な「芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ」(AADC)と呼ばれる酵素が脳内で不足するのだ。
ボイジャーの戦略(患者の小規模試験は開始済み)は、AADCの遺伝子を持つウイルスを脳に注入することで「時間を元に戻す」効果を狙う。蜜月期間と同様に、症状が進行した患者でもL-ドパが再度働くようにするのだ。
L-ドパの投与前後の患者の映像を見れば、なぜ少ない投与量で効果を上げる必要があるのかが理解できる。「オフ」の状態で、患者はスローモーションのようにしか動けない。鼻に触るだけでもひと苦労だ。これに対し薬が効いている「オン」の状態では、震えが生じるが、症状はそこまで深刻ではない。
「最初はよく効くのですが、そのうちL-ドパに対する反応が安定しなくなります」というのは、カリフォルニア大学のクリストフ・バンクビッチ教授(脳神経外科)だ。ボイジャーの共同創業者で、遺伝子治療を計画した人物である。
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