色について面白いのは、人間が感情と色を結びつけることだ。直感的に、暗い色や灰色を負の感情と結びつけ、明るく鮮やかな色を陽気な気持ちと結びつける。実際、うつ症状の人は暗い色を好むことが研究でわかっている。
この事実から、別の仮説を引き出せる。インスタグラムのようなソーシャルメディアに投稿された写真を分析すれば、うつ症状の人を一斉に診断できるのではないか? だが、この仮説の信頼性はどうすれば検証できるだろうか?
19日、ハーバード大学(マサチューセッツ州ケンブリッジ)のアンドリュー・リース研究員とバーモント大学(バーモント州バーリントン)のクリス・ダンフォース教授の研究により、インスタグラムに投稿されている写真の色と個人のメンタルヘルスに有意な相関性を明らかになった。関係は非常に強く、心の病を早期に発見できそうだ。
研究は、アマゾンのメカニカルタークサービス(API経由で人間に仕事を発注するアマゾンのサービス)で、インスタグラムアカウントを持つ約500人のターク(作業者)を対象に始まった。まず、標準的な臨床うつ病検査などの質問を作業者 に回答してもらい、次に調査のため作業者が投稿したインスタグラムの写真を共有できるようにした。
研究への参加に同意した170人の作業者のうち約70人は臨床的にはうつ病だった。研究チームは、うつ病とみられる作業者には、さまざまな項目(最初にうつ病と診断されたのはいつか?など)を追加でたずねた。
次に研究チームは、インスタグラムからダウンロードしてデータベース化した4万枚以上の写真を分析することにした。クラウドソーシングで別の作業者を集めて、健康な人は直近100枚の写真、うつ病の人はうつ病と診断される以前の100枚の写真を選んで、評価してもらうのだ。
評価者には、それぞれの写真がどのくらい面白いか、好ましいか、幸せそうか、悲しそうかを0~5の尺度で判断してもらう。
研究者は、客観的指標でも写真を評価した。たとえば平均的色相、彩度、コントラストなどにより、写真の鮮やかさ、白黒写真か、色あせているかを示せる。
顔が個人の社会的活動を表すと想定し、顔検知ソフトウェアで、それぞれの写真にある顔の数も数えた。インスタグラム内の反応も知るため、いいねやコメント数も数えた。
データを装備した上で、機械学習アルゴリズムでうつ症状と写真の属性情報の相関関係を探ることにした。
研究チームが発見したのは、うつ病の人が投稿する写真には、健康な人よりも、青っぽい、灰色がかった、暗目の写真の投稿が多く、いいね数もほとんどないことだ。
インスタグラムにはさまざまなフィルター機能があって、写真に特徴を際立たせたり雰囲気を変えたりできる。うつ病の人には、はっきりとした好みがあった。「うつ症状の人がフィルターを使う時、あり得ないくらいに、カラー写真を白黒写真に変換する「Inkwell」フィルターを好むのです」とリース研究員とダンフォース教授はいう。対照的に、健康な人が好むのは、写真を明るくするValenciaフィルターだ。
データ分析により、いくつかの興味深い観察結果も出てきた。人間による評価で幸せそう、または悲しそうと評価された写真だけは、うつ病との相関性が低かったのだ。うつ病の人は、顔のある写真を投稿することが多いが、1枚あたりの顔の数は少ない傾向にあった。
どうしてかははっきりとわからない。だが、リース研究員とダンフォース教授の考えでは自己収束型の言葉を使ううつ病の傾向が、写真についてもいえるのではないか、といえそうなことだ。「もしそうなら、うつ病のユーザーが投稿する、顔の数が少ないたくさんの写真に写っているのは、当然自画像ということです」というが、「悲しい自撮り」仮説は検証していない、と研究チームは補足している。
興味深い疑問は、インスタグラムの写真で、アルゴリズムがどの程度十分にうつ病の人を特定できるかだ。そこで研究チームがこの疑問を100人が投稿した写真で検討したところ、アルゴリズムは70%の精度でうつ病の人を特定できることがわかった。総合診療医がうつ病と診断するより有意に高い精度だ。
「今回の発見が立証しているのは、個人の心理状態の大きな変化はソーシャルメディアの使用で伝搬し、コンピューターを使った方法で特定できるという考え方です」とリース研究員とダンフォース教授はいう。
そしてこれは、心の病を早期から正確に発見し、より有効の介入が望めそうだ、ということを示している。