連邦通信委員会(FCC)が昨年、画期的なネットワーク中立性に関する規則(特定のサービスをISPが優遇することの禁止など)を制定したとき、この問題はオバマ政権を代表する課題になった。しかし、「開かれたインターネット」をめぐる戦いは終わらず、多くの未解決の課題が次の政権に残される。
6月にコロンビア特別区連邦巡回控訴裁判所が下した判決で、新規定に対する異議申し立ては却下された。新規定はインターネット・サービス事業者(ISP)に対し、合法的である限りコンテンツをブロックしたり抑制したりすることを禁止し、ISPがネットワーク上のコンテンツに優先順位をつけること(恐るべきインターネットの「追い越し車線」)に同意するような商取引を禁じている。
これはつまり、共和党の大統領候補に指名されたドナルド・トランプ候補などのネットワーク中立性の反対派は、コロンビア特別区巡回控訴裁判所がこの件を再審するか、または最高裁判所が乗りだすことを望んでいるに違いない。民主党の大統領候補に指名されたヒラリー・クリントン候補は、ネット中立性についてオバマ政権の方策を支持しており、ISPの規制方法の論議が続く中で、おそらく新規定を擁護し続けるだろう。
インターネット規制について、未決のまま次政権に残された3つの重要な課題は以下のとおりだ。
プライバシーを護るためにお金を支払わなければならないのか?
FCCが昨年新規定を制定した際は、ブロードバンドの分類を「情報サービス」から電気などと同じインフラ扱いの「電気通信サービス」に変えるという、大胆で論議を呼ぶ手段をとった。これによりFCCは、航空会社やトラック輸送会社、電話会社など、商品や人を輸送するサービス提供者、いわゆる一般の運輸会社を統制するのと同様に、法令に基づき、ISPを厳しく規制できるようになった。
FCCは4月、ISPに対し新たなプライバシー規則を提案した。ISPは、サービスを提供非常に重要という理由で、ユーザーの同意なしに一定のデータを使えるようになる。「通信関連」のマーケティング目的に顧客データを使えるが、顧客はオプトアウトで拒否できる。他の目的では、すべて顧客がオプトインしなければ使えないし、オプトインするかどうかはサービス利用の可否には影響しない。この規制は少なくともインターネットでは例がない。ISPは、個々の動画サービスや検索エンジン、電子商取引サイトでさえ取得しないような幅広いデータを獲得できるので、類例のないプライバシー規制が必要なのだ、とFCCは主張する。
コムキャストは、ISPがデータを入手する代わりに、顧客に「割引やその他のサービス」を提供できるようFCCに迫っているが、プライバシーと特典と取引は、収入の低い顧客を差別することになると、各方面から反発されている。FCCは年末までには、プライバシー規則について結論を出すかもしれない。
ネットフリックスの映画の読み込みが遅い本当の理由は何か?
新規定により、FCCは、プロバイダーが相互にネットワークを接続させるために取り決める企業間協定を、初めて監督する権限を持つことになる。この種の協定が最初に社会の注目を浴びたのは、数年前多くのネットフリックスの顧客が速度の低下に気付き始めた頃だった。
続いて、コムキャストとネットフリックス間で公開論争が起き、ネットフリックスは、トラフィックをインターネットの「バックボーン回線」に伝送するために、ネットフリックスが料金を支払っている通信事業者との接続点で、意図的に通信速度を低下させていたとしてコムキャストを非難した。ネットフリックスは、相互接続点と呼ばれるこのような接続ポイントをめぐる企業間協定を監督するにあたり、FCCがもっと大きな役割を担うことを要求した。政策研究共同企業であるメジャーメントラボによるその後の研究で、複数の大手ISPの顧客が、数カ月にわたって不十分なブロードバンド速度の低下に気付いた例がいくつも明らかになった。研究者の推測では、原因は十分な回線速度がない場合も含めて、相互接続に問題があるためだという。
しかし、ISPの詳細な内部情報入手しなければ、原因が接続点の不十分な性能とは確信できない、とプリンストン大学情報技術政策センターニック・フィームスター所長はいう。
FCCが企業間協定への新たな監督権限が、性能問題を減らせるかどうか、まだ判断はできない。
この論争は本当に終わるのだろうか?
さまざまな側面があるため、「開かれたインターネット」で何が許されるのかの論議は何年も続くだろう。たとえば、今明らかになりつつある「ゼロ・レーティング」(無線インターネット・サービス事業者が顧客に、指定されたアプリケーションのデータ通信は、その顧客のデータ使用量の上限とは無関係に使える条件)の実施に規制側はどのように取り組むのかは、まだ不明だ。この種の取り決めはネットの中立性に違反するという声もある。たとえばAT&Tの「スポンサー付きデータ」プランの場合、あるアプリのデータ通信が有利に扱われることに企業がお金を払うことを許している。
一方で、「有料の優先」あるいは顧客がその情報交通を優先させてもらうためにISPに追加料金を支払うという企業間協定の一律禁止は、重苦しい革新という意図せぬ結果をもたらすかもしれない、とFCCの新規定の批判者たちは論じる。情報技術革新基金の通信政策アナリストのダク・ブレークは、有料の優先は必ずしも顧客に害があるとはいえず、品質保証のあるビデオ会議開催といった新しいアプリや、拡張現実の開設、仮想または拡張現実感のある、ある種のアプリの普及に役立つかもしれない、という。
究極的には、新規定の反対派は法廷で争い続けるだろう。最終的には最高裁判所がこの件を引き継ぐ、明確な可能性がある。