量子コンピューティングの大いなる展望は、従来のコンピューターの能力をはるかに越える、圧倒的に複雑な計算を実行することにある。50キュービット(量子ビット)程度の量子コンピューターが世界最速のスーパーコンピューターを凌駕することは、物理学者の間では昔から知られている。
しかし、従来の計算能力の限界を超えること、物理学者が呼ぶところの「量子超越性」(従来型コンピューターを使うよりも、明らかに量子コンピューターでなければ処理できないほどの計算量を量子コンピューティングで処理できるようになること)を実現するのは、考えていたよりも難しいことが分かってきた。量子状態は繊細だ。くしゃみをすれば消えてしまう。このため物理学者たちは、量子コンピューターと量子処理装置を外部から孤立させるという現実的な課題で立ち往生している。そんなわけで、量子超越性は依然として遠い目標に思える。
だが、多様な量子アルゴリズムを実行できる汎用量子コンピューターを使わずに、量子超越性を実証できる方法があるかもしれない。代替案として物理学者が試し始めたのが、単一用途の量子システムだ。システムがその用途において、従来型のあらゆるコンピューターの能力を超えることを示せれば、量子超越性が初めて実証されたことになるだろう。しかし実際の方法については、これまで目処が立っていなかった。
2017年10月4日、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のチャールズ・ニールとグーグルのペドラム・ルーシャンが、量子超越性を実現する方法を見つけ、原理を証明できる装置の開発に初めて成功したと発表した。2人の研究により、数カ月のうちに量子超越性が初めて実証される可能性が出てきた。
まずは基本的な説明を少ししておこう。通常のビットに対するキュービットの大きな優越性は、状態を重ね合わせて存在できる点にある。通常のビットは1か0のどちらかだが、キュービットは同時に1にも0 にもなれる。
つまり、2個のキュービットは、4つの数字を同時に表すことができ、3個のキュービットは8つの数字を表せる。9個だったら同時に512。要するに、能力が飛躍的に上がることになる。
そんなわけで、従来のコンピューターを超えるのに、キュー …