KADOKAWA Technology Review
×
MITTRが選ぶ35歳未満のイノベーター「IU35 2024 Japan」発表!
11/20授賞式開催決定
New Brain-Mapping Technique Captures Every Connection Between Neurons

ニューロンのつながりを
ウイルス注入でマッピング

遺伝子バーコードで脳細胞間の接続を迅速かつ安価にグラフ化する新手法「MAP-seq」。 by Ryan Cross2016.08.18

人間の脳は、全人類に残されている最も偉大な未知の領域の1つだ。あらゆる神秘的な場所へのアプローチと同様に、理解への秘訣はまずよい地図を用意することだ。

神経科学は脳内のニューロン間の接続をマッピングする目標に向かって大きな1歩を踏み出した。遺伝物質の「ビット」を使って、各脳細胞をバーコード化するのだ。「MAP-seq」と呼ばれる手法により、研究者は今後、自閉症や統合失調症などの疾患を、以前より詳細に研究できるかもしれない。

「我々は、無数の応用が可能なまったく新しい技術の基盤を得た」と、手法を考えたコールド・スプリング・ハーバー研究所の神経科学者、アンソニー・ザドル教授はいう。

「コネクトーム」と呼ばれる脳の神経接続をマッピングする現在の方法では、一般的に蛍光タンパク質と顕微鏡で細胞のつながり可視化しているが、コネクトームは手間がかかり、一度に多くのニューロンの接続を調べられない。

「無数の応用が可能なまったく新しい技術の基盤を得た」

MAP-seqは、最初にランダム化されたRNA配列を含むウイルスのライブラリーを作成する。次いで、この混合物を脳に注入すると、およそ1つのウイルスが注入領域内の各ニューロンに入りこみ、各細胞に固有のRNAバーコードを付与する。次に、脳を切り刻んで、整理された区画ごとにDNAシーケンサーでRNAのバーコードを読み取り、接続行列を作成し、個々のニューロンがどのように脳の他の領域に接続しているかを処理し、グラフ化する。

ニューロン誌で8月18日に発表されたばかりの研究では、青斑核と呼ばれる脳領域で、マウスのニューロン1000個の広大な外向き接続を追いかけ、この手法が成り立つことを示している。ただし、この論文は、単に手法の確立を述べているというより、脳全体に広がるニューロンの接続について、従来の相反する調査結果を統合したことだ、とザドル教授はいう。

ザドル教授とともにMAP-seqの開発に関わったユストゥス・ケブシュル研究員も、MAP-seqは従来の手法より改善されているという。

「現在、1週間に1度、1回の実験で10万細胞をマッピングしています。以前なら、こんな実験をするのには、山ほどの作業が必要でした」

自閉症や統合失調症は、脳の接続性の機能不全から生じると考えられている。脳の発達過程で、脳の配線がわずかに変わってしまう遺伝子変異が他にも数百あると見られている。「異常性のあるモデル生物を観察していますが、MAP-seqにより、多くのモデル生物を非常に高速に観察できます」とケブシュル研究員はいう。自閉症のさまざまな候補遺伝子を持つマウスの脳回路を比較することで、自閉症に関する新たな洞察が得られるはずだ。

「MAP-seqは可能性を多く秘めた素晴らしい方法だと思います」というのは、コールド・スプリング・ハーバー研究所の分子生物学者で、MAP-seqの研究には関係していないジェ・ヒョク・リー助教授。他の研究グループも、同様のバーコードを使って細胞間個々の差を研究してきたが、バーコードが脳全体の神経結合に沿って移動できるとは思いつかなかった。「推測はしていましたが、きちんと示されたことはありませんでした。特にこのスケールでは示されたことがありません」とリー助教授はいう。

ザドル教授によれば、現在、脳をバーコード化しているのは、自身の研究室だけだ。しかし、ザドル教授は、他の研究室もMAP-seqで脳回路をグラフ化して欲しいと願っている。「シーケンシングのコストが大幅に安くなり続けているので、迅速かつ安価に実行できると予想できます」とザドル教授はいう。脳の完全なマップを使用して、最初の探検家が出発するのも、それほど先のことではないだろう。

人気の記事ランキング
  1. The winners of Innovators under 35 Japan 2024 have been announced MITTRが選ぶ、 日本発U35イノベーター 2024年版
  2. Kids are learning how to make their own little language models 作って学ぶ生成AIモデルの仕組み、MITが子ども向け新アプリ
  3. AI will add to the e-waste problem. Here’s what we can do about it. 30年までに最大500万トン、生成AIブームで大量の電子廃棄物
  4. This AI system makes human tutors better at teaching children math 生成AIで個別指導の質向上、教育格差に挑むスタンフォード新ツール
ライアン クロス [Ryan Cross]米国版 ゲスト寄稿者
パデュー大学で神経科学と遺伝学を学び、ボストン大学の科学ジャーナリズムプログラムを卒業したジャーナリスト。コーヒーを飲むことと遺伝子編集の話も大好きですが、最新の科学トレンドや発見を解きほぐし、分かりやすく調合するのも得意です。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る