不親切なことで悪名高いボストンのドライバーと無秩序な交通マナーは、これまでとはまったく異なる種類の自動運転車の試験運転をするのに最適な環境となるだろう。
MITのスピンオフ企業であるアイシー(iSee)は、人工知能(AI)の新しい手法を使って自律運転システムを開発し、試験している。車の運転トレーニングを簡単なルールや機械学習アルゴリズムに頼るのでなく、認知科学からインスピレーションを得て、機械に一種の常識と、新しい状況でも素早く処理する能力を与えようとしているのだ。人間同士で行われている意志疎通のやり方や、車の物理的な特性を理解し、学習するアルゴリズムを開発するこのアプローチは、道路で未知の状況に出会ったり、運転手同士で譲り合いや複雑な駆け引きをしたりする際に、より自然に対処できる自動運転車を作れる可能性がある。
アイシーの共同創設者であるイビャオ・ジャオCEO(最高経営責任者)は、「人間の心は物理現象や社会的な行動様式に対して、極めて敏感です」と述べる。「現在のAIのこうした領域での能力は限られており、車の運転においても能力が欠けています」。
アイシーは、業界の第一人者とは決して言えない。MITが地域の革新的なテクノロジー企業のために設立した新しいベンチャー・キャピタル・ファンドであるジ・エンジン(The Engine)の小さな研究所で、数名のエンジニアが働いている。MITのキャンパスから歩いてすぐの場所にあるジ・エンジンの研究所からは、駐車場所を探して駆け引きする車や、側道から大きな道路に合流して交通の流れにのるチャンスを狙っている車の様子が見渡せる。
アイシーのオフィスにある机は、最初の試作品である、レクサスのハイブリッドSUV(もともとは共同創設者が所有していた車)を制御するセンサー類やハードウェアで覆いつくされている。エンジニアの何人かは、大型コンピューターのモニターに表示されたプログラム・コードに見入っている。
アイシーは、ウェイモ(Waymo)やウーバー(Uber)、フォード(Ford)など無人運転車を開発している他社と比較すると笑ってしまうほど小さく見えるが、開発しているテクノロジーは、今日のAIが応用されている多くの分野へ多大な影響を与えるものだ。比較的少ないデータ量で機械を訓練し、ある種の判断力を自ら形成できるので、アイシーのテクノロジーを使えば、産業ロボットは特に未知の状況が発生した場合に、より賢く対応できるようになる。
近年、膨大な量のデータを必要とするニューラルネットワーク(「10 Breakthrough Technologies 2013: Deep Learning」参照)を使った深層学習のおかげで、AIは既に目覚ましい進歩を遂げている。
膨大なデータを入力すれば、深層ニューラルネットワークは微妙なパターンを認識できるようになる。例えば、深層ニューラルネットワークに犬の写真をたくさん入力すると、ほとんどどんな画像においても犬を判別できるようになる。しかし、深層学習にも限界はあり、さらに大きく進化するには、革新的なアイデアが必要だ。実は、犬を判別する深層学習システムを使っても、犬には通常足が4本あり、身体中を毛で覆われていて、鼻が濡れているといったこと …