KADOKAWA Technology Review
×
Machine-Vision Drones Monitor Animals in the African Savanna

サバンナの野生動物調査にマシン・ビジョンのドローンが活躍

野生動物の保護には個体数の把握が欠かせない。最近ではドローンを用いた調査も実施されているが、ドローンの撮影画像を分析するには、専門家が膨大な時間を費やす必要がある。スイス連邦工科大学の研究チームは、マシン・ビジョンのアルゴリズムを訓練することで、専門家が費やす時間を大幅に削減し、個体数の見積もりを大きく改善できることを示した。 by Emerging Technology from the arXiv2017.09.19

カラハリは、ボツワナ共和国、南アフリカ共和国、ナミビア共和国にまたがる広大なサバンナの半乾燥砂漠地帯だ。キリン、ダチョウ、ヌー、ガゼルの仲間など、様々な大型哺乳類が数多く生息する。

サバンナでは、動物たちの食料事情が常に変化している。降雨量が変化すればエサとなる草の量も変わるし、野火が広がって草が焼けてしまうこともある。土地管理者たちは、動物たちが草を食べつくしてしまわないように、食べられる草の量と動物の数が釣り合うよう気を使わなければならない。

だが、それには大々的な監視をして、大型哺乳類の推定生息数を見積もらなければならない。最も一般的な方法は、ヘリコプターから数えるか、カメラトラップ(自動撮影カメラ)を設置してその前を通過する動物たちの動きを記録することだ。

だが、これらの方法には難点がある。カメラトラップは設置された場所の個体数しか記録できないし、ヘリコプターからの調査は費用も時間もかかりすぎる。

別の選択肢として、ドローンを飛ばして写真を撮る方法がある。ドローンなら、広大な土地を飛び回って大量の写真を撮影できる。だが、この方法にも問題がある。撮影された画像を分析する作業が大変なのだ。訓練を受けた人間が、膨大な時間を費やして作業に当たらなければならない。

土地管理者たちは、これらの画像を分析するためのよい方法を切望している。

そこへ現れたのが、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のニコラス・レイたちの研究チームだ。レイたちは、マシン・ビジョンのアルゴリズムを訓練して、人間の代わりに画像を分析させる研究をした。アルゴリズムを使えば、専門の人間が費やす時間を大幅に削減し、大型動物の個体数の見積もりを大きく改善できるという。

研究チームが採用した方法は明快だ。レイたちは、2014年にナミビアのカラハリにあるクジクス野生生物保護区で実施されたドローンによるマッピング調査に目を付けた。この調査では、保護区の上空にドローンを5回飛ばして、搭載カメラで6500枚の地上写真を撮影した。それぞれの写真は3000×4000ピクセルで、1ピクセルあたり数センチの解像度だ。

画像には大型哺乳類が数多く写っていた。しかし、広範囲に散らばっているので、人間が探すとなると膨大な時間がかかる。

レイたちは人間に代わって画像から動物を探すように、マシン・ビジョン・システムを訓練しようと考えた。しかし、訓練をするには、機械が学習できるための正解が必要になる。

そこで、クラウド・ソーシングでボランティアを募って、正解のデータセットを作成することにした。232人のボランティアが写真を調べて、動物を見つけるたびに多角形で囲んだ。1枚の画像あたり平均5人が分析にあたり、少なくとも3人、多い場合は10人が画像を分析した。分析した人の半数以上が同意したら、動物を見つけたと判断する。

この方法で、ボランティアは650枚の写真から976頭の大型哺乳類を見つけ出した。次に専門家が分析結果を見直し、21件の誤認を取り除いた。専門家の作業にかかった時間は、わずか30分だった。チームは、これらのデータを使って、マシン・ビジョンのアルゴリズムの訓練と試験を実施した。

その結果、興味深いことがわかった。動物の影が長くなっている朝に、アルゴリズムが最も正しい結果を出すことに気づいたのだ。「午前中、同じ時間にドローンを飛ばすことで、より良い結果が得られると結論付けました」。同じ理由で、地面に横になっている動物よりも立っている動物の方が見つけやすこともわかった。

いずれにしても、マシン・ビジョン・システムはうまく機能した。「システムを使えば、動物を高い確率で発見して、人間が少ない手間で誤認を除去できます」と、研究チームは語る。結局人間が関わることには変わりないが、作業量は大幅に削減された。

この研究は、アフリカやそのほか広い地域での動物保護に役立ちそうだ。「サバンナの半乾燥地帯に生息する大型哺乳類を見つけるには、手頃な価格な固定翼型ドローンに取り付けた標準的なカメラで画像データを取得し、処理するのが有効であることが今回の研究で示されました」と、レイたちは語る。

レイたちの研究が興味深いのはその点である。比較的安価なドローン技術と、ますます進化するマシン・ビジョンの手法が、遠隔地でどのように適用できるかが示されたわけだ。結果として、こうした地域での動物保護活動が、より簡単に、効果的になるだろう。

(参照:arxiv.org/abs/1709.01722:Detecting animals in African Savanna with UAVs and the crowds:アフリカ・サバンナの動物調査にドローンとクラウド・ソーシングが活躍)

人気の記事ランキング
  1. Why handing over total control to AI agents would be a huge mistake 「AIがやりました」 便利すぎるエージェント丸投げが危うい理由
  2. An ancient man’s remains were hacked apart and kept in a garage 切り刻まれた古代人、破壊的発掘から保存重視へと変わる考古学
  3. OpenAI has released its first research into how using ChatGPT affects people’s emotional wellbeing チャットGPTとの対話で孤独は深まる? オープンAIとMITが研究
エマージングテクノロジー フロム アーカイブ [Emerging Technology from the arXiv]米国版 寄稿者
Emerging Technology from the arXivは、最新の研究成果とPhysics arXivプリプリントサーバーに掲載されるテクノロジーを取り上げるコーネル大学図書館のサービスです。Physics arXiv Blogの一部として提供されています。 メールアドレス:KentuckyFC@arxivblog.com RSSフィード:Physics arXiv Blog RSS Feed
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る