致死性の高い小児血液がんを治療するために遺伝子操作した免疫細胞を使用する画期的な治療法が、8月に米国食品医薬局(FDA)に認可され、重要な節目を越えた。CAR-T療法と呼ばれる高度に個別化されたこの治療法には、患者自身の免疫細胞が用いられ、製造に約3週間かかる。これら2つの要因により、治療費は47万5000ドルとなっている。
同様の治療法はいくつか開発されつつあるが、治療1回分の投与量を製造するのにかかる費用と時間により、治療を切実に必要としている患者たちの手の届かないものになってしまう可能性がある。このような問題に対処するため、学術研究所や民間研究所はすでにより新しい方法に取り組んでいる。患者自身ではなく健康なドナーの免疫細胞を用いる方法だ。治療用の免疫細胞を大量生産しておき、患者が必要とする時にいつでも提供できるようにしようというアイデアである。仮説上は、1人のドナーのサンプルから十数回分あるいは数百回分もの投与量を製造できるはずだ。
「とても魅力的なコンセプトです」と、ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院でがん遺伝子療法を研究し、CAR-T細胞の開発に関わったブルース・レビン教授は言う。「治療を必要とするものの、体内の免疫細胞から十分な量のCAR-T細胞を作り出せない患者がいることは明らかです」。
「オフザシェルフ(すぐに使用できる)」免疫細胞と称されるこれらの治療法には、独特の問題がある。先の9月4日、FDAは、78歳の患者が死亡した後、フランスのバイオ企業セレクティスが開発しているオフザシェルフ免疫細胞療法の臨床試験を中止させた。セレクティスは患者の死亡に関してはまだ調査中としており、アンドレ・チョウリカCEO(最高経営責任者)は、後退はしたが落胆はしていないと話す。しかし、今回の悲劇により、これらのオフザシェルフ療法は個別化CAR-T療法を上回る潜在的なメリットがあるにもかかわらず、商品として提供できる段階にはまだ達していないことが明らかになった。
FDAの認可を受けたノバルティスの個別化CAR-T療法では、患者自身のT細胞(免疫細胞の一種)を使用する。患者のT細胞を取り出し、キメラ抗原受容体(CAR)として知られるタンパク質の遺伝暗号を指定する新しい遺伝子を含むように遺伝子を改変する。このたんぱく質は、表面に特定のマーカーを持つがん細胞を探し出し、殺すようにT細胞に指令を出すものである。遺伝子改変した細胞は、患者の体内に注入して戻される(2016年版ブレークスルーテクノロジー10:免疫工学)」を参照)。
個別化CAR-T療法は、患者が治療に使用するのに十分な量の免疫細胞を持っていることを前提としている。しかし、すべてのがん患者が十分な量の免疫細胞を持っているわけではない。個別化CAR-T療法 …