ニューラルネットで「ミツバチのダンス」解読、大量死の謎解明へ
マシン・ビジョンやニューラル・ネットワークでミツバチの尻振りダンスを解読する研究が進んでいる。食物供給に影響するミツバチの行動をより正確に把握できるようになりそうだ。 by Emerging Technology from the arXiv2017.09.15
現代社会は、安全で信頼性の高い食物供給システムに依存している。その供給システム自体、農業から流通ネットワークに至るまで、幅広く他のシステムに依存している、複雑なものだ。こういったシステムを堅牢に保つためにも、数多くの工夫が必要とされている。
しかし、2007年、食料の供給に関する予想外の脅威が明らかになった。北米で、最大70%のコロニーの西洋ミツバチが、突然死滅したのだ。ミツバチは広範囲の食用植物に授粉するため、コロニーの消滅は食料の生産性に急激かつ深刻な影響をもたらす可能性がある。生物学者は、ネオニコチノイドと呼ばれる殺虫剤や、イスラエルの急性麻痺ウイルスによって引き起こされる病気など、その原因について頭を悩ませている。一方で、どうすればミツバチのコロニーを将来的に守っていけるのかも、はっきりわかっていない。
確かなことは、生物学者がミツバチの習性や、近隣の植物に授粉する方法を研究するために、より優れた手段を必要としているということだ。ミツバチは、自分がどこにいたのかを正確に伝え合うことができる。ミツバチの有名な尻振りダンスには、食料源への方向と距離が符号化されているので、他の蜂もその食料源にありつくことができる。
動物の習性に関する最大のブレークスルーの1つが、1920年代にドイツの生物学者カール・フォン・フリッシュによってミツバチの尻振りダンスが解読されたことだ。フリッシュはその功績によってノーベル賞を受賞している。しかし、この解読プロセスでは、ダンスの方向と持続時間を人間が測定する必要がある。
解読プロセスは、ビデオ録画技術によって簡素化されたが、わずか数匹のミツバチという小さな規模でしか実行できない、時間のかかるタスクであることは変わっていない。そのため、生物学者はミツバチの尻振りダンスを解読するための、より優れた方法を探求している。
そこで、ドイツのベルリン自由大学に所属するティム・ランドグラフ准教授のグループは、ミツバチの尻振りダンスを自動的に解読できるニューラル・ネットワークを開発した。「リアルタイムで自動的にコミュニケーション・ダンスを検出、解読、そしてマッピングできるシステムを開発しました」とランドグラフ准教授はいう。その新しい手法は、ミツバチの採餌行動の研究に革命をもたらすかもしれない。
尻振りダンス解読システムの原理は単純で、巣にいるミツバチの動きをビデオカメラで録画すればよい。その動きはランダムでごった返したもののように見えるかもしれないが、そこには注目すべき秩序が存在しているのだ。
尻振りダンス自体が高度に秩序化されている。ミツバチは、およそ13ヘルツ(1秒間に13回)の振動で左右に体を揺らすと同時に、直線上に前進しながらダンスを開始する。続いて、ミツバチはダンスの開始地点に円を描いて戻ってくる。直進した方向によって、食料源の方向を太陽との位置関係で表し、ダンスを行う時間の長さがその距離を表している。
尻振りダンス解読システムはマシン・ビジョンシステムによって、特徴的な13ヘルツの尻振りをビデオ画像から検索する。尻振りが見つかったら、ニューラル・ネットワークはミツバチとそのダンスを分離する。そして、他のアルゴリズムがダンスの方向と時間を計算し、最終的に食料源の位置をはじき出す。
ランドグラフ准教授のグループによれば、巣箱からおよそ300メートル離れた既知の食料源に向かうように訓練されたミツバチを使用したテストで、彼らが開発したシステムは90%以上の確率でその位置を正確に特定したという。これは人間の観察者と同じくらい優れた結果だ。しかし、マシン・ビジョンシステムの場合は、より大きなミツバチのグループを、より長い時間観察できる点で決定的に違う。
ランドグラフ准教授らはシステムをさらに正確に、より使いやすく改善したいという。その後、システムをどうすれば比較的低コストで大規模なスケールに展開できるのかを考えるのは、そう難しくはない。それによって、生物学者は今までより詳細に、そしてより大きなスケールでミツバチの習性が研究できるだろう。農家にとっても、作物が授粉される様子をリアルタイムに観察できるので、収穫が計画通りにいくように役立てることができるかもしれない。
ランドグラフ准教授らの研究は、コロニー崩壊の問題解決に役立ち、われわれの食料の供給を守ってくれるはずだ。
(参照:arxiv.org/abs/1708.06590: ミツバチの尻振りダンスの自動検出および解読)
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