機械知能を構築する秘訣が、何時間もReddit(米国の2ちゃんねる的サイト)を読見続けること、なんてあり得るだろうか?
シリコンバレーのセレブ数人が支援して立ち上げたNPOオープンAlの研究チームが、チップメーカーのエヌビディアが開発した新型スーパーコンピューターを利用して答えを得ようとしている問題だ。オープンAIの研究者はロボットに調理させる訓練をさせており、さまざまなジャンルのコンピューター・ゲームをプレイするアルゴリズムも構築している。
新型マシンの「DGX-1」は、深層学習として知られる機械学習手法に最適化されており、人間の脳を模して神経単位に作られた大規模なネットワークにデータを供給するなど、近年人工知能に於いて大躍進を遂げている。DGX-1により、人工知能研究者は、より多くのデータを使ってより速く深層学習システムを訓練する。大雑把な比較として、従来のコンピューターで250時間かかる計算が、DGX-1では約10時間で済む。
オープンAIでは、DGX-1による計算性能の向上で、言語理解に早速成果が現れるかもしれない。オープンAIの研究者は、米国で人気のウエブサイトRedditのメッセージ・スレッドを、会話についての蓋然性に基いた理解力を構築するアルゴリズムで読み取らせる。メッセージが十分供給されれば、基底にある言語モデル自体が会話できるほどまで性能が高まるのでは、と研究者は期待している。また、DGX-1にもっと多くのテキストの断片を知能モデルに供給すれば、機械の知能を作る課題に対しコンピューティング・パワーをさらに適用できる。
オープンAIのアンドレイ・カルパシ研究員は、現代的な機械学習手法は、大規模になればなるほど高性能になる傾向があるという。「深層学習は非常に特殊な種類のモデルです、なぜなら、モデルを拡大するにつれ常によりよい仕事をするからです」と、カルパシ研究員は今日エヌビディアが公表した映像の中で語っている。
言語は人工知能にとって非常にやりにくい問題だが、近年研究者らはこの問題に深層学習を取り入れる方面で前進を見せている(「人工知能と言語」参照)。たとえば、グーグルの研究者は、もともと翻訳の機能を果たすように設計された深層学習システムに映画の会話を供給し、いくつかの問題に極めて申し分なく答えられることを証明した。
また、オープンAIの研究者は、ロボットが人や現実世界と関わることにより、言語を使えるようになるかどうか模索する計画だ。しかし、研究はまだ初期段階であり、Redditを含む作業を拡大させるのはより容易だろう。Redditのデータで鍛えられたモデルは、新しいハードウエアのおかげで、数カ月から数年分の会話データを学習できる。
ゲーム用の画像処理デバイスメーカーであるエヌビディアが深層学習のブームに乗れたのは、深層学習のハードウエアが深層学習に必要な並列処理計算にとてもよく合っていたからだ。近年エヌビディアはこの長所を伸ばすため、約20億ドルをかけて開発したDGX-1は、本質的に深層学習に対して最適化されたグラフィックチップを並べたものだ。チップはデータを非常に速く処理し(ピーク時には約170テロフラップ、または1秒間に10憶回の計算能力がある)、データの共有もより簡単だ。
中国のインターネット関連会社バイドゥのアンドリュー・ウン主任研究員は使用を検討しているDGX-1をじっくり評価してきた。
「DGX-1の可能性によって、私たちは訓練課程の規模の拡大をはかる新しい方法で試せます。そうなれば、人工知能の進化させる見込んでいる、より大規模なデータセットでモデルを訓練できるでしょう」
オープンAIは最先端の人工知能研究に関わっている。深層学習の他に研究者が注目しているのは、強化学習として知られている、多数の試行錯誤を通じて学習できるアルゴリズムを開発する研究分野だ。
オープンAIは強化学習により、家庭内で役に立つ雑用ロボットを作りたいと考えているが、実現までには時間がかかりそうだ。(「強化学習で家事手伝いロボルンバ以上の大ヒットは確実」「人工知能は掃除が苦手 お掃除ロボはルンバ止まり?」参照)
また、オープンAIの研究者は、人工知能のアルゴリズムが、それ自身のモデルあるいは理論を作りだすことで、データセットが何を意味するのかをさらにもっと効率的に学習する方法も探究している。たとえば、あるアルゴリズムは、コインを集めると、常にスコアを上げることに役立つと判断することにより、いろいろなコンピューター・ゲームをプレイできるかもしれない。
人工知能の分野で著名な人物で、オープンAIのイリヤ・スツカバ研究責任者は、人工知能分野の研究は、究極的に、もっと効率的に学習できるより良いアルゴリズムに導いていく可能性がある、という。
「そのようなすべての改善がなされれば、ずっと少ない経験で、もっと高度な目標を達成できるような動作主の構築が当然可能になるでしょう」
オープンAIは、テスラやスペースXのイーロン・マスクCEO、Yコンビネータ(ベンチャー投資会社)のサム・アルトマン会長など、ハイテク産業の重鎮から10億ドルの資金を得て2015年に創業した。NPOであるオープンAIの目標は、開かれた人工知能研究により、人工知能が人類に恩恵を与えることが確実になるよう支援することである。
エヌビディアのジェンスン・ファンCEOは、最初のDGX-1をオープンAIに提供しようと決めたのは、オープンAIの目標を信頼しているからだ、と述べた。
「エヌビディアの戦略は、人工知能の民主化です。この力強いテクノロジーが、社会にとって役に立つ方向に向かってほしいのです」