遺伝子編集技術のCRISPR(クリスパー)は、DNAの塩基配列を変え、遺伝性の疾患を治す可能性のある技術として、生物学の分野で現在もっとも注目されている技術だ。
では、さらに優れた、CRISPRをまったく使わない遺伝子編集技術はあるのだろうか。
マサチューセッツ州ベッドフォードのスタートアップ企業ホモロジー・メディシンズ(Homology Medicines)は、その技術を見つけたという。同社は、自分自身で人間の遺伝子を有効に修復するというウィルスを使って遺伝性疾患を治療するとして、1億2700万ドルもの資金を集めた。
ホモロジー・メディシンズの主張が本当だとすれば、彼らは人体の遺伝子を編集するこれまでにない安全でシンプルな方法を見つけ出したことになる。CRISPRのようにDNA鎖を切り開くことが必要なくなるのだから。
CRISPRよりも優れた技術があるとすれば、影響は計り知れない。しかしホモロジー・メディシンズの科学的な成果はまだ広く認められていない。実際、何人かの科学者はMITテクノロジーレビューに、彼らの言っていることはおそらく間違いだろうと語っている。
「不思議なのは、ホモロジー・メディシンズが科学者の間では真実とは見なされていないことに対して、それほどの資金を集められたことです」とシアトルのワシントン大学のデビッド・ラッセル教授は言う。「遺伝子編集に対する熱狂のなせる技でしょう」。
現在、人の遺伝子を編集して病気を治すより良い方法を見つけることは、医学界の最大の挑戦かもしれない。そしてもっともお金になるものでもある。8月30日、米食品医薬品局(FDA)は、「最初の遺伝子療法」と呼ばれるものを認可した。遺伝子操作した細胞を使って白血病を治療するノバルティスの治療法「キムリア(Kymriah)」だ。こうした治療はいずれ巨額の売り上げになる可能性がある。
大発表
従来の遺伝子療法は、特定のウィルスを使って、細胞の中の遺伝子を、多くは無作為に添加するだけだった。それに対して遺伝子編集は、DNAの塩基配列を正確に消去したり書き換えたりする強力な先端技術である。しばしば「遺伝子治療2.0」と呼ばれる。
CRISPRは現在知られている最も実用的な遺伝子編集技術だ。CRISPRは、DNAの二重らせんを切断するタンパク質酵素であるヌクレアーゼを使ってゲノムを編集する。DNAの二重らせんの切断によって細胞内で引き起こされる緊急修復作用を利用して、DNAコードの中の文字の書き換えを制御する。
ホモロジー・メディシンズの衝撃的な発表は、ヌクレアーゼを使わずにDNAを編集する方法に関するもので、DNA鎖を破壊しなくても済むという。いわば、メスを使わない手術、ハサミを使わない洋服の仕立てのようなものだ。
不可能なようにも思えるが、実は1988年にこの現象を最初に実証したのはラッセル教授だった。遺伝子によく似たウィルスをDN …