KADOKAWA Technology Review
×
1億ドル調達
「CRISPRよりすごい」
遺伝子編集技術は本物か
Daniel Savage
カバーストーリー Insider Online限定
In a Sign of Gene-Editing Frenzy, Startup Pitches Editing without CRISPR

1億ドル調達
「CRISPRよりすごい」
遺伝子編集技術は本物か

遺伝子編集技術のCRISPRが注目されている一方で、ある新興企業がCRISPRを使わない遺伝子編集技術を発見したと主張して注目されている。しかし、すでに1億2700万ドルもの資金を集めた同社の遺伝子編集技術に対して「データの裏付けがない」と懐疑的な科学者もいる。 by Antonio Regalado2017.09.20

遺伝子編集技術のCRISPR(クリスパー)は、DNAの塩基配列を変え、遺伝性の疾患を治す可能性のある技術として、生物学の分野で現在もっとも注目されている技術だ。

では、さらに優れた、CRISPRをまったく使わない遺伝子編集技術はあるのだろうか。

マサチューセッツ州ベッドフォードのスタートアップ企業ホモロジー・メディシンズ(Homology Medicines)は、その技術を見つけたという。同社は、自分自身で人間の遺伝子を有効に修復するというウィルスを使って遺伝性疾患を治療するとして、1億2700万ドルもの資金を集めた。

ホモロジー・メディシンズの主張が本当だとすれば、彼らは人体の遺伝子を編集するこれまでにない安全でシンプルな方法を見つけ出したことになる。CRISPRのようにDNA鎖を切り開くことが必要なくなるのだから。

CRISPRよりも優れた技術があるとすれば、影響は計り知れない。しかしホモロジー・メディシンズの科学的な成果はまだ広く認められていない。実際、何人かの科学者はMITテクノロジーレビューに、彼らの言っていることはおそらく間違いだろうと語っている。

「不思議なのは、ホモロジー・メディシンズが科学者の間では真実とは見なされていないことに対して、それほどの資金を集められたことです」とシアトルのワシントン大学のデビッド・ラッセル教授は言う。「遺伝子編集に対する熱狂のなせる技でしょう」。

現在、人の遺伝子を編集して病気を治すより良い方法を見つけることは、医学界の最大の挑戦かもしれない。そしてもっともお金になるものでもある。8月30日、米食品医薬品局(FDA)は、「最初の遺伝子療法」と呼ばれるものを認可した。遺伝子操作した細胞を使って白血病を治療するノバルティスの治療法「キムリア(Kymriah)」だ。こうした治療はいずれ巨額の売り上げになる可能性がある。

大発表

従来の遺伝子療法は、特定のウィルスを使って、細胞の中の遺伝子を、多くは無作為に添加するだけだった。それに対して遺伝子編集は、DNAの塩基配列を正確に消去したり書き換えたりする強力な先端技術である。しばしば「遺伝子治療2.0」と呼ばれる。

CRISPRは現在知られている最も実用的な遺伝子編集技術だ。CRISPRは、DNAの二重らせんを切断するタンパク質酵素であるヌクレアーゼを使ってゲノムを編集する。DNAの二重らせんの切断によって細胞内で引き起こされる緊急修復作用を利用して、DNAコードの中の文字の書き換えを制御する。

ホモロジー・メディシンズの衝撃的な発表は、ヌクレアーゼを使わずにDNAを編集する方法に関するもので、DNA鎖を破壊しなくても済むという。いわば、メスを使わない手術、ハサミを使わない洋服の仕立てのようなものだ。

不可能なようにも思えるが、実は1988年にこの現象を最初に実証したのはラッセル教授だった。遺伝子によく似たウィルスをDN …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. How a top Chinese AI model overcame US sanctions 米制裁で磨かれた中国AI「DeepSeek-R1」、逆説の革新
  2. Why the next energy race is for underground hydrogen 水素は「掘る」時代に? 地下水素は地球を救うか
  3. OpenAI has created an AI model for longevity science オープンAI、「GPT-4b micro」で科学分野に参入へ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る