ヒューストンとメキシコ湾岸の間にある、石油化学工場やガスパイプラインが建ち並ぶ工業地帯の中の小さな区画で、ある知名度の低い企業による実証実験用発電所が完成しようとしている。この発電所は、正真正銘のエネルギー革新となるかもしれない。
期待どおりに稼働すれば、ネット・パワー(Net Power)が1億4000万ドルで建設した50メガワットの天然ガス発電所は、発電で発生するすべての二酸化炭素を膨大なコストをかけずに効果的に回収できる。温室効果ガス自体で発電タービンを回すからだ。この技術によって新世代の発電所は、原子力発電が抱える開発リスク(「東芝の原子力事業崩壊は米国の原子炉新設と研究開発への大打撃になる」参照)、水力発電の地理的制限、太陽光や風力発電の安定供給といった問題抜きで、クリーンな電力を供給できるかもしれない。重要なのは、将来的にこのタイプの発電所は、米国内の安い天然ガスの豊富な供給を当てにできるかもしれないことだ。
「発表どおりに事が運ぶのであれば、大変革を引き起こす可能性があります」とMITエネルギー・イニシアチブのジェシー・ジェンキンス研究員はいう。
もちろん、二酸化炭素回収の道に転がっているのは、成功よりもはるかに多くの失敗だ。失敗には、サザン・カンパニーが最近放棄したミシシッピ州ケンパーでの数十億ドルをかけた「クリーン・コール」の取り組みも含まれる。ネット・パワーの発電所が稼働を始めるまでは、本当に期待どおりに効果的に低コストで安定して運転できるかは不透明なのだ。だが、初期の重大なテストは刻一刻と近づいている。「火入れ」は11月下旬または12月上旬の予定だ(現地周辺はハリケーン「ハービー」の影響で浸水中だが、8月29日の時点で施設は設計どおりに排水しており、被害は受けていない)。
石炭または天然ガス発電所のほとんどは、化石燃料を燃やして水を水蒸気に変え、その水蒸気でタービンを回して発電している。この循環の副産物として、ものすごい熱と温室効果ガスが排出されることになる。これまでの二酸化炭素回収の試みは、ほとんどがこのシステムの最後に除去ステップを追加するというものだった。当然、追加の費用がかかる。
テキサス州ラ・ポルテにある、パイプ、タンク、コンプレッサー、ポンプが迷路のように入り組んだ約6000平米のネット・パワーの敷地では、「アラム・サイクル」として知られる循環方法が使われている。とりわけ特徴的なのが、アラム・サイクルでは水の代わりに超臨界二酸化炭素を利用することで、水蒸気を使わないことだ。高温と高圧によって超臨界二酸化炭素となった二酸化炭素は、液体と気体の中間の特性を持つ …