実質現実(VR)の中でひっくり返ったり飛んだりしても人によっては何も問題はないが、中には吐き気を感じる人もいる。
「VR酔い」は、視覚と内耳の感覚のズレによって生じる。ヘッドセットを付けてバーチャル環境を歩き回る際に、目で見ている状況と体の感覚が必ずしも一致しないのだ。こういった現象はすべての人に起こるわけではないが、VRのテクノロジーが世の中に浸透していくための最大の課題の一つである。
企業や研究者は、ヘッドセットのディスプレイの解像度を上げることから、バーチャル世界で激しい動きをする場合は視野を制限するといった対策に至るまで、数多くの解決策を模索してきた。ブイレメディ・ラボ(VRemedy Labs)という新しいスタートアップは、ゲーム中に仮想のダイヤルを操作して刺激レベルを調整し、気持ち悪さを抑えるという独自の興味深い解決策を探っている。
マサチューセッツ州ケンブリッジに拠点を置くブイレメディ・ラボは、独自のビデオゲームを制作してこのテストを行っている。ゲームはスーパーヒーローの一団を救助するという内容だが、VRの中でも特に多くのユーザーが気持ち悪さを感じる、移動運動に関わるシーンがいくつか含まれている。ロケットエンジンを手に持って飛び回ったり、カギフックをひっかけてある場所から別の場所に移動したり、といった空中での動きだ。
現時点では、ユーザーがゲームを試す際に感じる不快な動きを、手動で制御している。ブイレメディ・ラボの共同創業者であるリチャード・オーツによると、最初は刺激レベルが最高の状態からプレイを開始し、プレイヤーの気分が悪くなったらゆっくりとダイヤルを下げ(約10分間)てレベルを落とし、気分が改善されているかどうかを見る。そこから再びレベルを上げていき、プレイヤーのスイートスポットを見つけるために細かく調節する。たとえば、視野の調整とか、移動中に通り過ぎる障害物の数などだ。最終的には、プレーヤーが自分で調整できるようになることを目指している。
ブイレメディ・ラボは、まず気持ち悪さのレベルを設定した。その際には、リフト(Rift)を開発したオキュラス(Oculus)や、バイブ(Vive)を共同開発したHTC、バルブ(Valve)といった企業の手法も考慮に入れた。ブイレメディ・ラボのもう一人の共同創業者ニッシュ・バンダリは、製品によるレベルの違いを非常に僅かなものにするよう試みている、という。
ブイレメディ・ラボは「I Hate Heroes」と呼ばれるこのゲームを、来年には完成させようとしている。最終的にはヘッドセット・メーカーと協力したり開発ツールを用意して、ゲーム開発者が細かい調整までできるようするつもりだとオーツはいう。
「私たちは、気分が悪くなるが楽しい、あるいは快適だが退屈だ、といったVR体験の型を破りたいのです。そして、誰でもが自分のペースや気分にあわせてプレイできるようなゲームを作りたいのです」。