シリコンバレーに本拠を構えるジップラインは、世界で初めてルワンダ国内で全国規模のドローン配送サービスを開始してから1年と経たずに、さらに業務を拡大する。世界最大のドローン配送サービスといえる新たなベンチャー事業は、ルワンダの東隣、タンザニアで始まる。タンザニアの奥地の辺鄙な地域では、1000万人以上の人々が1000カ所以上の医療施設に収容されている。
タンザニア政府は8月24日、事業への協力には、タンザニアの3つの異なる地域にある4つの配送拠点からドローンによるさまざまな医療製品の配送が含まれると発表した。この発表は、ジップラインの取り扱い製品が非常に多岐にわたることを示している。これまでは、自動化された物流を扱うジップラインは、輸血に使用する血液製剤のみを配送していた(「現地ルポ:ドローンが変える アフリカ救急医療の現場」参照)。
2018年初頭にタンザニアで開始予定のジップラインのサービスは、血液製剤だけはでなく、緊急接種用ワクチン、HIVおよびマラリアの薬、そして縫合糸や点滴の管などの非常時支援物資の配送も含まれる。こうした製品を配送するのは「ジップス (zips)」と呼ばれる固定翼のまったく新しいドローンだ。ジップスは2キロの貨物を運び、往復で160キロメートル飛行できる。ジップラインのケラー・リナウド最高経営責任者(CEO)によると、ドローンによる配送費用は従来の輸送手段とほぼ同一だという。
狂犬病や破傷風に対するワクチンや、ヘビに咬まれた患者に投与する抗毒素といった製品の配送は、コールド・チェーン(常に低温に保つ物流方式)に依存しているが、リナウドCEOはジップラインのオンデマンド・モデルによってタンザニアでのコールド・チェーンを大幅に改善できると考えている。こうした製品は保存費用がかかり、たまにしか使われないので、僻地では備蓄がほとんどない。しかし、仮にこうした製品が必要になり、誰かの命が危険な状態でも、陸上配送では手遅れになることが多い。リナウドCEOは、こうした、時間が制限された場合にドローンが最適だという。
抗マラリア剤や抗レトロウイルス薬、そして他の一般的な医薬品など、よりありふれた製品の配送に対するジップラインの取り組みはちょっと変わった方法になるだろう。ジップラインはタンザニアで既存の物流を補う「最後の砦」としての役割を果たすのだ。タンザニアでは製品の在庫不足の問題がよく起こるが、発展途上国ではよくあることで、資金不足、不正確な需要予測、物流の障害が原因だ。ジップラインのドローンは特に在庫問題に対処できる。タンザニアの市民社会団体であるタウェーザ(Twaweza)の2013年の調査によると、公共医療機関で処方薬を受け取れなかったと答えたのは回答者の41%にまで及んだ。ジップラインもタンザニアの健康当局も、ドローンによる配送によって需要と供給のギャップを効果的に埋められると主張している。
アフリカで6番目に多い人口を抱えるタンザニアは、発表よりもかなり前からジップラインの計画に関わっていた。2014年、リナウドCEOと同僚でジップラインの共同創業者であるウィリアム・ヘッツラーは、ジップラインが人命を救う方法を模索しながら訪れたタンザニアで影響を受けた。当時、ジップラインはありきたりなロボット企業として設立されていた。最終的に、ジップラインはルワンダで最初のドローン事業を開始した。ルワンダ当局は準備を整えていたし、ルワンダの面積は他国と比べると管理がしやすかった。ルワンダはメリーランド州よりもわずかに小さく、1つの拠点で国の半分近くにサービスを提供できるからだ。ちなみに、タンザニアはテキサス州よりも大きい。
ジップラインは、保管期間が42日で切れ、冷蔵保存の必要があり、緊急時に必要になることが多い血液を使ってドローン配送モデルの試験を始めた。昨年10月以降、ジップラインは、2600単位の血液をルワンダの12の医療施設に届けるために1400回の飛行を実施している。配送のおよそ4分の3は定期的な補充のためであり、4分の1は緊急事態への対応だった。
タンザニアでは、ジップラインの実績が注意深く検証されるだろう。首都ドドマ近くにあるタンザニア初のドローン配送センターが稼働すれば、グラスゴー大学とタンザニアのイファカラ健康研究所の研究者で構成されるチームはサービスの影響を評価する予定だ。特に、狂犬病のワクチンなどのドローンによって利用できるようになった新しい製品を施設が管理できるかどうかや、空中物流が在庫切れに及ぼす影響が注目される。
「在庫切れは世界中の公衆衛生が60年近く解決しようとしている問題であり、解決が非常に難しいことが証明されています。もしかしたら、この問題を一気に解決できるかもしれないと考えると、非常にワクワクします」とリナウドCEOは話している。
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