KADOKAWA Technology Review
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How a Legal Loophole Could Trigger a Landgrab for the Moon’s Most Valuable Real Estate

実は開戦間際?
「月面戦争」の始まり方

国際条約はどの国家も月面を領有できないが、法的な抜け穴が、文字通りの資源獲得戦争を招く可能性が出てきた。 by Emerging Technology from the arXiv2016.08.11

1960年代、月に向かう競争はテクノロジー上の中心的激戦地だった。しかし1972年にアポロ計画が終了すると、世界はほとんど月のことを忘れてしまった。ロシアはサンプル回収のミッションを1976年に送ったが、その次の管制着陸は2013年の中国の嫦娥3号による月面ローバーミッションだった。

しかし月面への関心は再び熱を帯びつつある。計画通りに進めば、2020年までに、着陸船と標本採取と回収カプセルを備えた6隻の宇宙船が月面に着陸する。

そのうちのひとつが、米国のロボット工学企業アストロボティクス・テクノロジーズが出資する民間ミッションだ。月面に最初に着陸したロボット宇宙船に与えられる2000万ドルの民間資金Google Lunar X Prizeを獲得することを目指している。

月は、まさに旅行スポットとして人気になりつつある。

だが、月面の法的権利に関して興味深い一連の問題が浮かび上がってくる。本質的に、誰が月面を所有もしくは支配することになるのか?

この問題の答えは一見簡単だ。1967年に発効した国際協定「宇宙条約」により、月の所有権は禁じられている。宇宙条約の定めによれば、月は全人類に属する。

しかし米国ケンブリッジにあるハーバード大学スミソニアン天体物理学センターのマーティン・エルヴィス研究員らによれば、この条約には大きな抜け穴(国家による領有を禁じているが、企業や個人による宇宙開発を想定していないなど)がいくつかあるという。次の月宇宙競争が熱を帯びるにつれ、この抜け穴がもとで、これから数年のうちにある種の所有権の主張がなされそうなのだ。

エルヴィス研究員がまず指摘するのは、宇宙条約は、月面がおおむね一様であり、ある地域を占有しても重要な月資源を他から収奪することにはならないと仮定していることだ。

しかし最近の月面高解像度マッピングにより、この仮定は現実的ではなくなった。月のごく狭い領域が、別の領域よりもはるかに価値が高いことがあるのだ。最初に占有されるのは、こうした地域だろう。

月のもっとも貴重な不動産をめぐる競争が生じたときの問題点を探るため、エルヴィス研究員は思考実験を考案した。この思考実験では、月の北極と南極にある少数の地点に着目する。ほぼ常に日光が当たる、「永久日照の峰」と呼ばれる場所だ。

永久日照の峰は価値が高い。どの着陸船も太陽光発電を継続的に使えて、月の夜を切り抜けるためのバッテリーが少なくて済むからだ。温度もほぼ一定しているので温度管理の必要性が低く、宇宙船の設計も簡単だ。

永久日照の峰はごく狭い。通常クレーターの縁に沿って生じ、細長い形状をとる傾向にある。既知の永久日照の峰は、幅わずか数mだが、長さは数百mにもなる。フットボール球場の縁についた帯のようなものだ。

もうひとつの貴重な月の資源は、氷結した水だ。氷は南極付近の永遠の日陰にあるクレーターの一部にあると考えられている。ここにある氷は、彗星の破片が一度も溶けずに残ったものだろう。

永久影のクレーターの近くに永久日照の峰が見つかるのが夢のようなシナリオだ。この地点を拠点とする月ミッションは継続的で安価な電力にアクセスでき、そこにある水を取り出せる。そのような場所は月の工業開発を可能にするため、非常に価値が高く、強く探し求められている。エルヴィス研究員は「この組み合わせは月面でも非常に珍しく、2つのうち特に乏しいのは電力供給のほうだ」という。

エルヴィス研究員のチームは価値の高い地点を求めて月面を分析した。「永久日照の峰は、極めて貴重な資源であり、一国もしくは一企業が単独ですべてを占有すれば、他者がその資源を使おうとするのを実質的に拒否できる」とエルヴィスらは指摘する。

これほど小さいと、ひとつの峰を制するだけで、他の全員のアクセスを拒否することになるのだ。

永久日照の峰の占有が原因で紛争が起こる可能性は高い。「日照率が高い地域は塊をなして分布しているため、資源が集中しているときの常として、こうした資源に対する権利をめぐる紛争が最終的には生じるだろう」とエルヴィス研究員はいう。「最初の事例が高い信頼性で確認された時点で、『月の争奪戦』が生じるかもしれない。それは1880年代のコンゴで鉱物資源が確認されたときに始まった『アフリカの争奪戦』のようだ」

このシナリオは、一見して得られる印象よりも起こる見込みが大きい。重要な点は、問題の領域が月面の総面積の1兆分の1を占めるに過ぎないからだ。

エルヴィスらは思考実験で、永久日照の峰に電波望遠鏡を設置する事例を検討する。望遠鏡は地球からアクセスできない電磁気スペクトラムの端(波長およそ10m以上、もしくは周波数30MHz未満)を探査できる可能性があるので、一見すると科学に貢献する案だ。

望遠鏡を建造するのは簡単だ。アンテナは少なくとも100mの被覆のない長い針金になる。「細長い永久日照の峰のひとつの全長に載せるのが自然だ」とエルヴィス研究員はいう。

現代のテクノロジーでも実現は簡単で安価であり、達成できる可能性は高い。建造できれば、継続的な太陽光発電により、宇宙、特に太陽を間断なく観測できるはずだ。他に代替がなく、科学的価値の高い観測所になるだろう。

ここで重要なのは、そのような望遠鏡は電気的干渉に非常に敏感で、支柱は振動に弱いことだ。このため望遠鏡の周辺の領域は他の着陸船の区域の外でなければならず、そのような領域には、貴重な水資源のある永久影のクレーターがあるかもしれない。

言い換えれば、そのような望遠鏡を設置する行為そのものによって、価値ある土地など周辺のあらゆるものが取り込まれるということだ。「実質的に1本の針金だけで、月の領土のうちもっとも貴重な部分が不動産に近いものに取り込まれる可能性がある」とエルヴィス研究員はいう。

政治的ムードの高まりとともに国際的緊張が生じるさまざまなシナリオは、それほど想像力をかけずに想定できる。

世界はこの問題に取り組んで何らかの実行可能な政策を策定しなければならない、とエルヴィス研究員のチームは続けて論じる。そうでなければ、何らかの既成事実が衝撃となって行動を迫られることになる。

どちらの選択肢が好ましいかは明らかだ。実際にどちらか起こるかはそれほど明らかではない。月の争奪戦が起こったとすれば、複数の国、民間企業、もしかすると大陸までもが新しい宇宙競争に巻き込まれる可能性がある。その帰結は予測しがたい。

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