米国の太陽光エネルギー産業は今後15年にわたり、衰退しつつある国内の石炭産業で起こっている(一時的)解雇をすべて「いとも簡単に吸収」できる。
ミシガン技術大学のジョシュア・ピアス准教授などの新たな研究によれば、急成長する太陽光産業はすでに、石炭採掘と発電より5万人も多く(石炭産業の15万人に対し、太陽光産業は20万人)雇用している。また、2つのエネルギー産業は繁栄に向かい、もう一方は衰退に向かっているので、炭鉱労働者は太陽光産業で新たな職を得られるはずだ、とピアス准教授の研究チームは論じている。
ピアス准教授のチームが知りたいのは、炭鉱労働者を太陽光産業向けに再教育するのにいくらかかるか、だ。試算によれば、石炭火力発電所の管理人(太陽光発電所の組み立作業につくよう訓練できると思われた)から、坑夫、構造設計者に至るまで、すべての職種が含まれる。1年コースから、4年の資格課程まである訓練プログラムの総費用は、1億8000万~18億ドルだという。
15万人もの労働人口を再訓練するコストとしては、だいぶ値頃感のある金額だ。オバマ大統領はすでにパワー・プラス計画の一環として、炭坑労働者を再教育するために7500万ドルの支出を計画中だ。また、エネルギー省は「ソーラー・トレーニング・ネットワーク」政策により(特に再教育プログラムや、炭鉱労働者 の援助に限定されているわけではないが)、2020年までに7万5000人が太陽光産業の仕事につくよう訓練することに助成金を支給することになっている。
しかし、新たな産業で働けるよう労働者を再教育するのは、最近の記事で報じたとおり、思ったほど楽ではないかもしれない。
米国労働省の2008年の研究では、12州でレイオフされ再訓練プログラムを受けた16万人の労働者を観察し、「参加による最終的な収益は少額か存在しない可能性がある」と結論づけた。より最近の研究であるハミルトンプロジェクトでは、再訓練で成果を出すには、もっとも成果の出しやすい労働者に対象を絞ったプログラムにする必要があると判明した。一般的にいえば、大卒で、物事を途中で放り出さない意欲があり、雇用機会を求めて地元を離れる覚悟のある若年労働者を指す。アパラチアの失業した炭鉱労働者の多くは、この基準に合わない。
また、ニュース解説メディアVoxの分析記事が指摘しているように、太陽光産業の大部分は現在カリフォルニア州に集中しており、炭鉱労働者の多くが住む地域から遠く離れている。太陽光企業が今の場所を引き払って、炭鉱労働者が多い米国東北部のアパラチア地方に事業を移転させることはない。また、逆に、労働者は単に仕事があるからといって住む場所を変えることはない。
問題は他にもある。たとえば、米国の一部にはすでに太陽光の供給過剰に陥っており、太陽エネルギー(に限らず、風力でも原子力でも)が増設されればされるほど、エネルギー単位あたりの価値は少なくなる。この経済学的な問題が、太陽光産業の成長の余地を狭くしているのだ。もっとも、送電網を改良して電力が必要とされている場所に届けられれば話は別だ。
もちろん、炭坑労働者がすべてエネルギー産業に留まる必要はない。訓練を受けた働き手がいなくて困っている急成長中の産業は他にもある。たとえば、すでに何百万ドルという連邦政府の財政的支援が、元炭鉱労働者をコンピューター・プログラマーに育てる教育に向けられている。そういった職業は、はるかに移動性が高いメリットがある。また、常にマーケット・シェアを巡って、他のさまざまな電力産業との競争にさらされる太陽光産業と異なり、プログラマーの需要は今後長く安定しているだろう。