クラウドストレージ大手がグーグル採用、AI技術の寡占化進む
米国のクラウド・ストレージ企業が、グーグルの人工知能(AI)技術を採用した検索サービスを発表した。AIの基盤となる技術を数社の巨大企業が押さえ、大手による寡占化の動きが進んでいる。 by Will Knight2017.08.21
クラウドは刻一刻と賢くなっている。実際、クラウドにアップロードした数々の写真について、アップロードした当人よりもよく知っているようになる日も近いだろう。
クラウド・ストレージ企業の「ボックス(Box)」は2017年8月17日、同社のプラットフォームにグーグルのコンピュータービジョン技術を追加することを発表した。ユーザーは、ファイル名やタグの代わりに視覚的な部品を使って、クラウドに保存した写真や画像、文書を検索できるようになる。「クラウドにますます多くのデータが保存されるようになるにつれて、保存しているコンテンツを整理し、理解するための、より強力な方法が必要になっています」と、ボックスのアーロン・レビーCEO(最高経営責任者)は話す。
コンピュータービジョン技術は深層学習( “10 Breakthrough Technologies 2013: Deep Learning”を参照)として知られる機械学習のおかげで、過去数年間にわたり、著しく性能が向上した。深層ニューラル・ネットワークは、神経が情報を処理し、保管する方法におおまかな発想を得ており、「赤いセーター」や「軽トラック」のように物体を分類できる。グーグルの研究者をはじめとして、画像の中で何が起こっているのかを理解するアルゴリズムの能力を向上させる研究が進んでいる。
ボックスのコンピュータービジョン機能は、企業が人工知能(AI)と機械学習を導入する第一歩としてはよい方法かもしれない。何千もの画像に手作業で注釈をつける必要性がなくなり、タグに頼っていたときには思いもよらなかったような方法で古いファイルを徹底的に検索できるようになるだろう。ある企業は、特定の人物を画像内から検索するために、ボックスの技術を試用しているとレビーCEOはいう。
ボックスの発表は、機械学習とAIによりクラウド・コンピューティングを再発明するという最新の兆候の表れだ。AIはクラウド・コンピューティングの市場を支配する戦いにおいて、オンデマンドのコンピューティングを提供する企業にとって、既に格好の武器となっている。グーグルやアマゾン、マイクロソフトはそれぞれ、サービスに追加した機械学習機能の売り込みにかまびすしい。
グーグル・クラウドの主任科学者であり、コンピュータービジョンと機械学習を専門とするスタンフォード大学のフェイフェイ・リ准教授は、今回の発表はAIがいかに幅広く使えるかを証明するものであり、「やがては、より多くの人びとやビジネスの間で、AIが自主的に使われるようになるでしょう」との声明を述べた。
レビーCEOは、機械学習を他の種類のコンテンツにも追加することを検討しているという。ボックスのクラウドには、音声と映像のほかに、テキストも保存できる。テキストの意味をアルゴリズムで解析することにより、特定のキーワードを使う代わりに、文書の意味によって検索することが可能となる。
ボックスが、自社開発したAI技術ではなく、グーグルのコンピュータービジョン技術を採用したことも重要なポイントだ。数社の巨大企業がコンピュータービジョン、音声認識、自然言語処理といったAIの基盤となる技術を支配するようになった事実を反映しているからだ。レビーCEOは、「グーグルが保有する画像認識技術を考えてみれば、グーグルと競争しようとする試みが戦略的にはまったく賢明でないことは明らかです」と話す。そこでボックスの研究者たちは、機械学習を顧客の行動に適用する方法を探求しているという。そうすることが、ボックスのサービスを最適化する方法を見つけたり、自動化に適した業務を特定したりするのに役立つだろうとレビーCEOは語る。
グーグルのクラウドビジョンAPIは、画像の中の何千という日常的な物体を認識できる。しかし顧客の中には、たとえば医療や建築といった特定の種類の画像を検索する必要がある人もいる。そのためボックスの研究者たちは、必要に応じて顧客自身がビジョン・システムを訓練できるようにする方法を研究している。
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クレジット | Photograph by Lisa Lake | Getty |
- ウィル ナイト [Will Knight]米国版 AI担当上級編集者
- MITテクノロジーレビューのAI担当上級編集者です。知性を宿す機械やロボット、自動化について扱うことが多いですが、コンピューティングのほぼすべての側面に関心があります。南ロンドン育ちで、当時最強のシンクレアZX Spectrumで初めてのプログラムコード(無限ループにハマった)を書きました。MITテクノロジーレビュー以前は、ニューサイエンティスト誌のオンライン版編集者でした。もし質問などがあれば、メールを送ってください。