今年、35歳未満のイノベーター35人のリストに掲載されたこの注目すべき人々の多くを あなたはおそらく知らないだろう。しかし今後数年のうちには、ここに挙げられた発明家、起業家、ビジネスパーソンや科学者たちが、人工知能(AI)、自律型移動手段、クリーンエネルギー、医学の分野で革新を起こし、広く世の中に知られるようになるはずだ。
グーグル・ブレイン(Google Brain)の研究者、イアン・グッドフェローを紹介しよう。グッドフェローのブレイクスルーは、大量の情報の中から特徴を学習するAIの一種である多層ニューラルネットワークが、協力して動作するようにしたことだ。 ニューラル・ネットワークは、事実上人間のプログラマーを必要とせず、お互いを教え合う。グッドフェローは、自分の仕事はAIに「想像力」を与える第一歩だと表現する(AIが実際にどのような想像力を考え出すことになるのか、今後の展開を待つことにしよう)。
人工知能の分野におけるもう一人の新星が、プリンストン大学准教授のオルガ・ロッサコフスキーだ。ロッサコフスキーは機械の物体認識能力の改善に大きな貢献を果たしてきた。もし将来的にロボットが家庭に普及し、自動運転車が路上を席巻することになるとすれば、マシン・ビジョンの発展が不可欠だ。だが機械に自分が見ている物を理解させるのは、非常に難しい問題なのである。ロッサコフスキーの言葉を借りれば「まだ、その段階には到達していません」。しかし、若手イノベーターのリストに挙がった他の数名と同じく、ロッサコフスキーの活動も単に技術的な貢献にとどまるものではない。AIが私たちの生活の中でますます重要な役割を担うことになるだろうという認識から、ロッサコフスキーはAIテクノロジーを作り上げてゆく人々が社会に知恵を示す集団となるべきだと考えている。こうした思想から、ロッサコフスキーはAI研究開発分野の多様性を向上させる非営利団体AI4ALLを立ち上げた。ロッサコフスキーは、女性や社会的影響力を持たない属性の人々にAI開発に携わってほしいというだけではなく、医学や心理学といった異なる分野の研究者にも、来るべきスマート・マシンを協力して作り上げてほしいと考えている。
テクノロジーの発展に寄与したというだけではなく、この35人の若手イノベーターには、それぞれに心揺さぶる人間ドラマがある。肖健雄(シャオ・ジアンシャオ)は 、自律自動車が安全に走行するために必要なハードウェアを非常に安価に製造する、オート・エックス社の最高経営責任者(CEO)だ。シャオは中国の潮州市で過ごした少年時代を回想する。シャオは書籍を通じてコンピューターを知り、魅了されたが、実物に触れられるほどの金銭的な余裕のある家庭ではなかった。それでもシャオは紙に描かれたキーボードでブラインドタッチを練習し、長じてマサチューセッツ工科大学(MIT)でコンピューター科学の博士号を取得することになる。
現在はまだ多くの人にとってなじみの薄いこれらの人々が、今後どれほどの影響力を持つことになるのか? 1999年に本誌が発表した、最初のリストを見てみよう。今ではよく知られた名前がいくつも挙げられている。アップルのジョナサン・アイブ、アイロボット(iRobot)の創業者ヘレン・グレイナー。さらにジャッキー・インとダニエル・シュラグは、それぞれナノテクノロジーと気候科学の分野の世界的な第一人者となっている。今年のリストに挙がっている人々もまた、テクノロジーの可能性に対する世界の考えを大きく変えていくことだろう。