衛星画像から経済状況を洞察するのは、新しいアイデアではないがスタートアップ企業テルアス・ラボ(TellusLabs、本社ボストン) は、一工夫加えている。米国航空宇宙局(NASA)の衛星画像を、米国海洋大気庁からの気象データ、米国農務省からの季節と作物の成長情報と一緒に分析し、農業生産を予測するなど、天然資源に関する知識を機械学習アルゴリズムで形成するのだ。
戦略そのものはデカルトラボやオービタル・インサイトといった、他の衛星画像解析企業と似ている。しかし、テルアス・ラボが他と違うのは、分析に植生や気候についての科学的専門知識を適用し、天然資源に焦点を当てて、迅速に新しいプロダクトを展開することで差別化を図っている。目標は「経済情報を集約しているブルームバーグの情報端末のように、地球の情報に集約すること」だ。テルアス・ラボ共同創業者のデビッド・ポテールCEOは「天然資源に関して厳しい決断をするさまざまな人に、高品質のデータを提供したい」という。
テルアス・ラボが最初に市場に投入したKernelは、農産物の予測モデリングツールで、最近になって一般もアクセス可能なオープンベータ段階に入った。無料のベータ版の機能は限られているが、本格的なバージョンでは、インタラクティブなオンラインダッシュボードを備え、全米18州にわたるトウモロコシ栽培の主要地域の地図と、収量予想、収穫面積、総生産量といった経済指標が表示される。ユーザーは州、農業地区、群といったレベルでデータを表示し、米国農務省による過去の収量データも閲覧できる。ダッシュボードには、株式市場のティッカーに似た矢印インジケータもあり、トウモロコシ収量推定値の平均変化が前週比で示される。予測値は毎日更新される。
ブルームバーグの情報端末同様に、Kernelはさまざまな方法を利用して、高速で信頼性の高い経済的なデータを結ぶ集合体になるように設計されている。商品のトレーダーは、情報を利用して、先物市場取引で利益を上げられる。エタノール工場の運用担当者は、Kernelを参考にして、契約している農家が十分なトウモロコシを供給できるかどうかを測定できる。農業事業のジョン・ディアは、データフィードのライセンスを取得し、スマートポンプに統合し、作物にどのくらいの水を与えるか自動で調整できる。
Kernelの背後にある天然資源に関するノウハウのほとんどは、テルアス・ラボのもう一人の共同創業者であるマーク・フリドルCTOのものだ。フリドルCTOはボストン大学の地球環境学科の教授であり、同大学の土地被覆と地表気候の研究グループを率いて、大陸規模の植生図を作成し、監視している。テルアス・ラボには、農業、森林、水域のリモートセンシングに精通している顧問もいる。中には、米国航空宇宙局(NASA)の地表科学チームのメンバーやマサチューセッツ州にある環境研究機関ウッズホール研究センターの職員もいる。テルアス・ラボのポテールCEOは、衛星によるリモートセンシングの修士号、地理人口統計学の博士号があり、ボストン・コンサルティング・グループのデータサイエンスチームを立ち上げ、指導した人物だ。
精度と速度も、テルアス・ラボの競争力を高めている。最近の内部テストでは、政府よりも正確に、米国のトウモロコシの年末収量を予測できたという。このテストでは、テルアス・ラボは、アルゴリズムによって2004年から2014年までの米国農務省が公開しているトウモロコシの収量データを使って予測した。10年間で、スタートアップ企業であるテルアス・ラボの推定値が、8月と9月の政府の推定値の69%以上より正確だった。8月と9月は、トウモロコシの取引が最も多い重要な時期だ。
テルアス・ラボは、2016年の生育期のトウモロコシ収量の推定値も最近発表した。サービスの導入を検討中の場合、米国農務省が今月後半に発表する予定の見通し予測と比較するとよいだろう。
金融や経済情報、衛星画像解析のようなその代替データの総合サービスを提供しているクアドル(本社カナダ、トロント)は現在、Kernelをテスト中だ。結果次第では、Kernelプラットフォーム上でヘッジファンド、資産運用会社、年金基金、投資銀行に向けて情報を転売する予定だが、今のところは順調だ。クアドルのアブラハム・トーマス・最高データ責任者は「市場よりも正確かつ迅速な情報があれば利益を得られます。テルアス・ラボはその正確さと迅速さの両方を提供しています。農務省の公開情報の7割で正確であることは特に大きな説得力にはなりませんが、速度のメリットが加わることで魅力が増すのです」
テルアス・ラボは、9月にはKernelに大豆の予測モデルを投入する予定で、最終的には、小麦の見通しモデルの発表することを目指している。さらに衛星によって森林や大規模な淡水貯水地域を監視し、トウモロコシの収量データをアルゼンチン、ブラジル、中国へ拡張することも目標だ。ポテールCEOは「私たちはアイデアが止めどもなく出てきます。まだ話題にもなっていない地球規模の興味深い地理空間情報がごっそりとあるのです」