KADOKAWA Technology Review
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アマゾンのアレクサが描く
人と機械が対話する未来
roman muradov
カバーストーリー Insider Online限定
“Alexa, Understand Me”

アマゾンのアレクサが描く
人と機械が対話する未来

音声AI搭載のデバイスが米国では大人気だ。市場を開拓したアマゾンのアレクサ(Alexa)は、人と機械が対話する不可欠な手段となるかもしれない。 by George Anders2017.09.01

2012年8月31日、アマゾンの技術者4名が、もっとも巨大かつ複雑なデータセットである人間の話し言葉を扱う人工知能(AI)、アレクサ(Alexa)の最終形に関する基本特許を申請した。申請書にはAIの機能がたった11語の英単語と図で示されていた。静かな部屋で一人の男性が「ビートルズのレット・イット・ビーをかけて」という。卓上型の機械が「わかりました、ジョン」と答え、リクエスト曲が流れ始める、というものだ。

スタートこそ地味だったが、アマゾンにとって家庭用音声AIは大きなビジネスとなり、テクノロジーライバルたちとしのぎを削る、戦略上の重要な戦場になっている。グーグルやアップル、サムスン、マイクロソフトは、音声で簡単に作動する魅力的なAIを作ろうと数千名の研究者や専門家をつぎ込んでいる。「これまで私たちは皆、キーボード、画面のタップやスワイプを使って熱心にテクノロジーに語りかけてきました。でも、これからはユーザーインターフェイスから語りかけてくるのです」。銀行や大学、法律事務所など向けに音声で操作するアプリを開発するウィットリンゴ(Witlingo)のアハメッド・ブジッドCEOはいう。

アマゾンが高価なジュークボックスとして始めたビジネスは、今やAIシステムが搭載され、常に人間のデータを学習する重要なデバイスとなった。アレクサを搭載した円筒型のエコー(Echo)と小型のドット(Dot)は、家中どこにいても電気を消したり、冗談を言ったり、手を使わずにニュースを読ませてくれたりする家政婦だ。その他にも、ユーザーに関する大量のデータを集め、アレクサの使い勝手を向上する役割を担っている。

アレクサを搭載したエコーが発表された2014年以来、数千万台のアレクサ搭載デバイスが販売された。アマゾンは、競争が激化する米国の音声AIデバイス市場の70%(販売台数ベース)を占有していると推測される。グーグル・ホームも数百万台が出荷され、アップルやマイクロソフトもまもなく参戦する予定だ。

ホームオートメーション、ホームエンターテインメント、ショッピングの3つの市場は、誰もが支配権を得るか、少なくともある程度の影響力を持ちたいと考える重要な市場だ。冷蔵庫に話しかけたい人がどのくらいいるかは不明だが、毎日の生活パターンは目まぐるしく変化している。スマホがデート中のエチケットから歩行スピードまですべてを変えてしまったように、音声AIは生活の多くの場面を大きく変え始めている。アレクサのような音声AIがすぐにやってくれるのに、誰が玄関の鍵を閉めに行ったり、寒い朝に車の暖房をつけるために起きたりするだろう。

今ところアマゾンは、スマート・サーモスタットやスマート電球など、アレクサと接続するデバイスメーカーに対して使用料を要求していないが、将来的に収益分配方式などを採用する可能性があることは容易に想像できる。昨年の米国小売売上高は4兆9千億ドルだが、3つの重要市場の中で最も小さなホームオートメーション市場だけでも、すでに年間50億ドル超の市場になっている。現在、アマゾンはエコーなどのスピーカー販売(ドットは50ドル、ディスプレイを搭載した最上位機種のエコーが230ドル)で売上を上げているが、ユーザーがアマゾンの巨大なオンラインストアで買い物を始めればさらに大きな売上を見込める(アマゾンはアクセス数に関しては公表しないだろうが)。

エコーがスマホのように日常生活に浸透するには、もっとさまざまなことができなければならない。そのためにアマゾンは、アップルが長年そうしてきたように、独立系開発者がアレクサのプラットフォームで新しいサービスを構築できるよう推し進めている。これまで開発された「スキル」(アプリのこと)は1万5千以上にのぼる。開発用ツールが非常に扱いやすくなり、プログラミングの知識がそれほどなくても簡易的なアプリを1時間で開発できるようになったためだ。最も人気のあるアプリはウーバー(Uber)やリフト(Lyft)などの配車サービスだが、中にはユーザーを侮辱する言葉で攻め立てるなど、ひどいアプリも48本含まれている。

最も意欲的なアプリ開発者は、ハードウェアメーカーやアレクサを搭載したサービスを提供する企業だ。たとえば、米地銀大手のキャピタルワン(Capital One)は、アレクサを使った請求書支払いサービスを提供している。トロントを拠点とするエコビー(Ecobee)は、短い言葉だけで部屋の温度の上げ下げを行うアレクサ搭載のスマート・サーモスタットを製造する企業の中の1つだ。「われわれの顧客は非常に忙しい毎日を送っています」とエコビーのスチュアート・ロンバードCEOはいう。設立して10年のエコビーにとって最も伸びているセグメントはアレクサ搭載デバイスであり、全売上高の約40%を占めるという。「顧客は渋滞を切り抜け帰宅した後も、子どもに食事を与え、赤ん坊のおむつを替えるなど、他にも想像できないほど多くのことをこなさなければなりません。我々はそんな顧客が1つのことをやっている間にハンズフリーで別のことを片付ける術を与えているのです」。

音声がAIに出会うとき

消費者にとって音声AIが魅力的なのは、キーボードやスクリーンを使わずにユーザーの話や時に考えに応え、必ず従ってくれるからだ。だが、それは技術的に困難でもある。私たちはきちんと整理された内容を話しているわけではない。むしろ、自分で話を中断するし、話の焦点も定まらない。言葉だけでなく、うなずいたり、ぶつぶつ言ったり、意味不明のことを言っていても筋が通っていると思っていたりする。

シアトルやサニーベイル(カリフォルニア州)、ケンブリッジ(マサチューセッツ州)などのアマゾン研究所では、数千名の研究者がこの課題に取り組んでいる。そのうえ、最近のアマゾンの採用情報ページでは12の部署がアレクサ関連の業務に機械学習 …

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