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熱狂するドバイ、
アラブテック経済は
世界を変えるか?
カバーストーリー Insider Online限定
A Different Story from the Middle East: Entrepreneurs Building an Arab Tech Economy

熱狂するドバイ、
アラブテック経済は
世界を変えるか?

世界有数の観光地として知られるドバイはいま、中東におけるスタートアップの聖地として急速に変貌を遂げている。政府によるブロックチェーンの導入、建築物への3Dプリンターの活用などが進むドバイに、若く優秀な才能が集積しているのだ。配車サービスからビットコインまで、中東のスタートアップ企業5社がなぜ成功できたのか? 米国の起業家で、投資家のクリストファー・M・シュレーダーがレポートする。 by Christopher M. Schroeder2017.10.25

2017年3月末、中東・北アフリカ最大の電子商取引会社スーク・ドット・コム(Souq.com)が約6億ドルでアマゾンに買収されると発表された。これは異例のことだった。通常、アマゾンが地理的に新しい市場に参入する場合には、従来型のプラットホームを立ち上げたあと、多額の投資をして成長させるからだ。しかし、スークの経営陣、技術力、複雑な地域でビジネスを進める能力に並外れた印象を受けたアマゾンは、普段とは違う戦略を取った。

買収を発表した1週間後、中東・北アフリカ地域で人気のあるスタートアップ企業の集まり「ステップ・カンファレンス」がドバイで開かれたとき、アマゾンの関係者は雷に打たれたようなショックを受けた。スークの創設者ロナルド・ムチャワーや他のパネリストの討論を聞くために、2000人を超える起業家予備軍が立見の会場を埋め尽くしていたのだ。シリアのアレッポ出身のムチャワーは、他の共同創立者や主な投資者と一緒に1時間以上もステージで、電子商取引の巨大企業を作り上げるとはどういうことなのかを、一生懸命、詳細に説明した。2005年、スークを創立したとき、アラブ世界でインターネット・ショッピングをする人はほとんどおらず、オンラインでクレジット・カードを積極的に使う人はさらに少なかった。そしてテック関連のスタートアップ企業で成功している事例を探すのも難しかった。今、状況は変わった、とムチャワーは熱心な聴衆に強く訴えた。

その数カ月前、中東・北アフリカ地域で急速に成長している配車サービス会社カリーム(Careem)の評価額は、ベンチャー投資家達によると10億ドル以上だった。カンファレンスに参加した人にとって、最近の2つの成功事例は、アラブ世界が地元でもテクノロジーを使えるようになり、中産階級が増えてきたことを示す転換点に思えた。ノートパソコンに大量のメモを入力していた起業を志す若い女性は、「私にもできます。やってみせます」と話した。

もちろん、この地域は、貧困、戦争、さらに政治制度・経済制度の崩壊といった非常に現実的も問題抱えている。イスラエルには十分に確立されたテクノロジー産業があるが、アラブ首長国連邦とドバイの主要経済圏の外にあるアラブ中東地域では、法律や規制を守るのは煩雑なうえに、多くの場合は突然の変更があり矛盾だらけである。比較的多額の投資をしているにもかかわらず、教育的なインフラも21世紀の経済情勢に合わせた労働力を生み出すには不十分だ。

しかし、明るい話題もある。ドバイでは、至る所で若者が集まっては自分のスマート端末をチェックしている。若者は海岸の曲がりくねった砂の道を歩いたり、最近完成した運河の公園のような美しさを楽しんだり、ファッショナブルなカフェでくつろいだりしている。2世代前であれば、若者が集まるのは砂漠に囲まれた小さな市場兼真珠採取場だったが、現在、ペルシャ湾を望むこの町は中東全域からテクノロジー関連のスタートアップ企業が集まる拠点となって、東西南北の新興市場に目を向けている。スークとカリームは数千社の中の2社に過ぎない。そして、グーグル、フェイスブック、リンクドインなどの世界的なテクノロジー企業のすべてが、アマゾンのようにドバイでのビジネスを大きく広げている。

新世代の若いアラブ人起業家を含め、ドバイの住民300万人の大多数はドバイ出身ではない。そして、スタートアップ企業は中東の「常にインターネットに接続した状態」の世代を対象にビジネスを展開している。国連開発計画(UNDP)によれば、中東のほとんどどの国で、人口の半数以上が30歳未満だ。移動体通信事業者や関連企業からなる業界団体GSMアソシエーション(GSMA)は、10年後にはその約3分の2がスマート端末を持つと予測している。2017年現在、この予測は湾岸諸国の一部ではすでに達成されているが、エジプトや他の国ではずっと低い数字だ。多くの場合、移民してきた起業家はドバイをプラットホームにして顧客を開拓し、出身国の市場知識や母国の技術や才能ある人材を手頃な人件費で使って事業を運営している。

20年前であれば、世界的技術を使ってビジネスをすると言えば、基本的に米国での展開を意味していた。今ならインターネットにつながっている消費者はインド、東南アジア、アフリカまでどこにでもいて、さらに増えている。ドバイから飛行機で4時間以内のところに世界人口の3分の1以上がいる。ステップ・カンファレンスの調査部門によれば、ドバイまたはその他のアラブ首長国連邦地域に、アラブ世界の全スタートアップ企業の42パーセント以上が本社を置いている。市場調査グループ、マグニット(Magnitt)は、過去5年間にアラブ世界で買収されたテクノロジー関連企業60社のうち、ほとんどの本社がドバイにあると推定している。2018年には、10億ドルもの新規ベンチャー資金が地元スタートアップ企業のためにドバイやアラブ首長国連邦の投資家から調達される見込みだ。これはどんな新興経済地域にとっても大きな金額であり、2016年の水準からも大きな飛躍だ。

破産とビザ

アラブ首長国連邦政府は近年、起業促進ために法制を変更した。2016年には最初の破産法を制定した。失敗からの救済、失敗からの学び、そして素早く次の起業に取りかかることは、シリコンバレーの企業にとって事業を進める上での重要な要だ。しかし、中東には負債や債務に対する文化的伝統のせいで、倒産を犯罪とみなす地域がある。倒産した会社の役員たちは、文字通り懲役刑の実刑を受けるかもしれないのだ。また、米国には外国人が特別な職業について働くことを許可するH1-Bビザの拡大に反対している人がいる一方、アラブ首長国連邦では世界のどの国の人でも、第一級の技術者であれば居住を許す新しいビザを発表したばかりだ。

アラブ首長国連邦を構成するドバイ首長国政府もテクノロジーを進んで受け入れている。2020年末には、すべての政府の文書および交渉内容を、取引と照合しながら安全に記録する分散型記録保持技術、ブロックチェーンで利用できるようになる。また、費用を削減しつつ効率を上げ、建築物の安全性を向上させる戦略の一環として、2019年までに、新たに建設許可を出す建設物の最低2パーセントで3Dプリント部品を使い、2030年には25パーセントにまで引き上げる計画だ。アラブ首長国連邦は独自の宇宙開発計画すら持っている。人工衛星計画を拡大して、アラブ世界としては初めて火星探査機を打ち上げる計画を立てている。

31歳のアラ・アルサラルは、アラブ首長国連邦に数千人いる、 …

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