世界初の生体転送機は、サンディエゴのビルの低層階にあるシンセティック・ゲノミクス社(Synthetic Genomics Inc.:SGI)の研究室に設置されている。一見すると、巨大なカートのようだ。
実はこの装置は、小さな機械やラボ・ロボットの集合体であり、互いに接続されて一つの巨大な機械になっている。この装置は、かつてなされたことのない、あることができる。転送されたデジタル・コードを使って、ウイルスを自動的に作成できるのだ。
この装置を使った一連の実験は、2016年にクライマックスを迎えた。SGIの科学者たちは建物内の別の場所から装置に送った遺伝的指令を使って、一般的なインフルエンザウイルスのDNAを自動的に作成。さらに、細菌性細胞に感染するウイルスである機能性バクテリオファージも作成した。
DNAのパーツからウイルスを作成した事例は、以前にもあった。しかし、人手をかけずに自動的に作成したのは、SGIが初めてである。
「デジタル・生体変換器」と呼ばれるこの装置は、2017年5月に披露された。まだ試作品だが、いつの日かこのような装置で、疫病のアウトブレイク発生地点からワクチン製造業者に生物学的情報を転送したり、個別化された医薬品をオンデマンドで患者のベッド脇で作成したりできるようになるかもしれない。
「この10年間、生物をFAXできるようになることをずっと夢見てきました」というのは、SGIを設立したベンチャーキャピタル企業エクセル・ベンチャーズ(Excel Ventures)の役員の一人、フアン・エンリケスである。綿繰り機のように、「デジタル・生体変換器」が新たな産業革命につながることを期待している。
2005年にSGIを設立し、現在はもう業務には関わっていない異端の生物学者クレイグ・ベンター博士は、惑星間で生物を転送することさえ可能になるだろうと語っている。
「ベンター博士はイーロン・マスクともこのことを話しています」と、SGIのDNAテクノロジー部門副社長を務めるダン・ギブソン博士はいう。
インフルエンザ・ウイルス
自慢話と壮大な科学計画で知られるベンター博士と異なり、ギブソン博士は控えめだ。だが、ギブソン博士は、生物学者の間では、ラボで作成した小さなDNAをより大きな遺伝子へと組み合わせる反応である「ギブソン・アッセンブリー」で名を馳せている。
デジタル・生体変換器の心臓部を構成するのは、SGI製の商用DNAプリンターBioXP 3200である。ギブソン博士が自分のオフィスからデジタル・生体変換器にメッセージを送ると、装置はあらかじめ用意された化学物質を使って作業を開始する。メッセージは、どこからでも簡単に送ることができる。
ギブソン博士のチームは2017年5月下旬、この装置を用いて、「デジタルで転送されたDNAシーケンスから、人間が介入しない自動化された方法」で、どうやってDNAやRNA、タンパク質、ウイルスを作成し …