ウェアラブル機器も登場
鎮痛剤を使わない
疼痛治療のイノベーション
中毒性のある鎮痛剤に代わって、脊髄刺激装置を使った神経刺激法と呼ばれる疼痛治療法の技術革新が進んでいる。手術なしで利用できる装置やウェアラブル機器など、メーカーの開発競争が盛んだ。 by Emily Mullin2017.08.24
チーズ工場で働いていたテリ・ブライアントは2000年、就業中に椎間板(背骨と背骨の間にあるデリケートな軟骨)を損傷した。それがブライアントの慢性疼痛の始まりだった。2年後にブライアントは腰の手術を受け、強力なオピオイド系薬剤であるフェンタニルの定期的な服用を開始した。しかし、2009年に2回目の手術を受けた後も腰痛は収まることがなかった。
2012年、ブライアントは腰痛を緩和する脊髄刺激装置の臨床試験に参加した。試験では、この装置を脊髄の根元部分の皮下に埋め込む。そして電源を入れると、微弱な電気信号が脊髄の中の神経線維に送られる。
この治療法は神経調節法や神経刺激法として知られ、神経から脳に送られる疼痛信号を遮ることにより痛みが緩和されると考えられている。この考えは1960年代からあったが、近年急速に技術革新が進んでいる。医薬品開発会社は中毒性のない疼痛治療薬を開発しようと躍起になり、医療機器メーカーは手術を必要としない体外装置だけでなく、コンパクトでより快適な埋め込み型装置の開発競争を展開している。ブライアントが装着した刺激装置は「センザ・システム(Senza System)」と呼ばれ、疼痛治療の医療機器として最も伸びているものだ。
疼痛に悩む米国人の全体数に変動はないが、疾病管理予防センター(CDC)によれば、オピオイドの1人当たり処方量は1999年から2015年にかけて3倍にも増加している。また、米国のオピオイド系鎮痛剤中毒者は2015年に200万人に達したとみられている。オピオイドの使用量は米国で急増しており、成長段階にある疼痛治療機器は、一部の患者にとって薬を使わない代替治療となりえるだろう。また、すでにオピオイド依存症になっている患者には、禁断症状を緩和する効果も期待されている。
スタンフォード大学医科大学院のマイケル・レオン疼痛専門医によれば、こういった装置のメリットは、投与する医薬品の量を減らせたり、全く鎮痛剤を使わなくてすんだりできることだという。これは医師にも患者にも魅力的だ。
「みんなオピオイドを恐れています。欠点があるからです。患者はオピオイドを使いたくないのです」レオン医師はいう。
今では52歳となったブライアントは、オピオイドを恐れる患者のひとりだった。オピオイド系薬剤の服用は10年を超え、依存症になるのではないかと常に心配していた。「高用量の鎮痛剤を服用しつづけることに躊躇していました」とブライアントはいう。しかし脊髄刺激装置を装着すると、ブライアントの疼痛はすぐに治まり、フェンタニルの服用を中止することができた。
装置を埋め込む以前、ブライアントの疼痛は悪化していたが、今や定期的に散歩し休むことなく出勤している。今年の夏、ひどい腰痛を抱えていては叶うはずがないと思っていたヨーロッパ旅行まで果たすことができた。
最初の脊髄刺激装置が1989年に米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けてから、メドトロニック(Medtronic)やボストン・サイエンティフィック(Boston Scientific)、セント・ジュード・メディカル(St. Jude Medical)などの医療機器大手が脊髄刺激装置市場を独占してきた。こういった装置を使うと、患者は錯感覚(パレステジア)と呼ばれるピリピリとした刺激を感じる。刺激の調整や停止は体外にあるリモコンを使って行う。
ブライアントが …
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