2006年、電気自動車というニッチ市場を狙ったスタートアップ企業、テスラ・モーターズ(Tesla Motors)の立ち上げに当たって、イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は壮大な3次計画を立てた。計画は3つの車種を順次発売していくというもので、発表の順ごとに前モデルより低価格にし、スポーツカーとデラックスセダンの販売から得た資金を研究開発に投入して、最終目標である安価なファミリータイプの完全電気自動車のコストダウンと開発スピードのアップを実現する——というものだった。
クリーンな自動車が大衆車市場に受け入れられて初めて、テスラはマスクCEOの考える包括的な目標である「化石燃料を燃やす炭化水素エコノミーから太陽発電エコノミーへの転換」を加速できる(「イーロン・マスク主演「ハウス・オブ・カード」シーズン2」参照)。
10年前に無謀だと見られていた大方の予想に反し、テスラはマスタープランの最終ステップに到達した。カリフォルニア州フリーモントにある同社の製造工場では入念に練られたイベントが開催され、待望のモデル3(Model 3)が最初の数十人の顧客に納車された。4ドア・セダンタイプのモデル3の価格は3万5000ドルから(助成金適用前)で、1回の充電で約345キロメートル走行できる。
モデル3の価格が手に届くものと言えるかどうかはわからない(車好きな人たちは、一般にこの価格帯を「デラックス・カーのエントリー・レベル」と呼んでいる)。しかし、さまざまな層の電気自動車ファンがモデル3の発売を歓迎し、テスラが自動車市場の新生面を開いたことに異論はないはずだ。テスラは、大量のガソリンを消費する乗用車やトラックが普及している国で、家庭内のコンセントで充電できるプラグイン電気自動車への関心を高めた。他の自動車メーカーに電気自動車の製造を計画させたり、計画の実施を加速させたりといった影響も与えている。
しかし、第三段階に到達しても、マスクCEOが掲げる壮大な計画の実現には程遠い。近年の急速な成長をもっても電気自動車は依然として小さな市場であり、世界の新車販売額の1パーセント以下にすぎない。
近い将来、電気自動車が自動車市場の成長分野となることはほぼ確実だ。しかし、自動車市場の主流に食い込むにはまだ長い時間がかかるだろうし、自動車の化石燃料への依存度を大きく引き下げるにはそれよりもずっと長い時間がかかるだろう。インフラ、消費者の購買意欲、社会政策、蓄電池の価格など、多くの課題が残っているからだ。こうした課題をどれだけ早く解決できるか、また、テスラがどのようなポジションに収まるのか、意見は分かれる(「テスラモーターズは2018年に年間50万台も自動車を製造できない」参照)。
イーロン・マスクの予測は現実的か
「マスク卿」はこうした事実についていつも楽天的だ。2017年7月、マスクCEOはロードアイランドで開催された全米知事協会サマーミーティングの講演で、米国で生産される車の半分以上が「おそらくあと10年で」電気自動車になると予言した。最も楽観的な予測よりも10年も早い予想だ。
マスクCEOの予想をブルームバーグ・ニューエナジーファイナンスの推定に従って現実に当てはめてみると、2027年には米国の自動車の需要の半分である910万台の電気自動車が販売されることになる。このすべてが60キロワット時のリチウムイオン電池パック(モデル3の標準パッケージ)で動くとすると、全米市場だけで毎年546ギガワット時に相当する蓄電池を生産する能力が必要だ。
再びこの数字を現実に当てはめてみよう。今日、電気自動車の蓄電 …