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温暖化対策の切り札なるか
ハーバード大教授が語る
「成層圏注入」実験の意義
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This Scientist Is Taking the Next Step in Geoengineering

温暖化対策の切り札なるか
ハーバード大教授が語る
「成層圏注入」実験の意義

気候を人工的に変えることで温暖化へ対応する地球工学の手法「成層圏注入」の初の屋外実験が始まる。リスクを指摘する声もある中で、なぜいま屋外実験が必要なのか。研究を主導するハーバード大学のデビッド・キース教授に意義を聞いた。 by James Temple2017.08.15

ハーバード大学のデビッド・キース教授は、地球工学という扱いの難しいトピックを科学の主流に近づけるために、一研究者として可能な限りの研究を進めてきた(“A Cheap and Easy Plan to Stop Global Warming”参照)。

キース教授は気候を変えることで地球温暖化を緩和する方法を最初に真剣に考えた研究者であり、「成層圏注入」と呼ばれる有望なアプローチに関して詳細な研究をいくつも行っている。キース教授はテーマについて、「気候工学の事例(A Case for Climate Engineering)」という本を書いている。また、ビル・ゲイツ財団の後援を受け、この分野の研究を支援しているエネルギー気候基金を共同管理している。2017年、キース教授はハーバード大学の太陽光地球工学プログラムの立ち上げを支援し、同僚と共に初の屋外実験の1つ(「気候変動の最終手段「地球工学」の使用を誰が決断するのか?」参照)を実施する計画を発表した。

成層圏注入の基本的な考え方は、地上高くに粒子を散乱させることで宇宙からの熱を反射し、地上温度の上昇を抑えることである。これは、大規模な火山噴火で二酸化硫黄が大気中に噴出し、その後数か月、地上温度が下がる自然現象を模擬的に作り出すものだ。

この実験計画のため、キース教授と同僚のフランク・クーチ教授は高高度気球を打ち上げ、少量の二酸化硫黄やアルミナ、炭酸カルシウムを成層圏に散布することを計画している。散布実施後は、センサーにより粒子の反射率、拡散度、粒子と他の化合物との反応を計測する予定だ。最初の試験飛行は2018年にも実施される予定である。

キース教授はハーバード大学の応用物理学と公共政策の教授だが、先日、MITテクノロジーレビューに対して、これから実施する実験や、地球工学を取り巻く広範な問題について語ってくれた。このインタビューのハイライト部分を、下にある音声ファイルに収録した。内容は以下の通り。

https://s3.amazonaws.com/files.technologyreview.com/p/pub/files/david-keith-and-james-temple-for-emtech-preview-mixdown-2.mp3

 

キース教授は、2017年11月6~9日にマサチューセッツ州ケンブリッジのMITメディアラボで開催されるMITテクノロジーレビューのEmTech 2017の講演者でもあり、そこでは地球工学や、増大する気候変動の危険に対応する他の方法ついて、再び私たちと議論する予定だ。

なぜ今、地球工学の屋外実験を進めるべきでしょうか。

私は太陽光地球工学に関して、広範囲な研究プログラムを進めるべき時期が来ていると思います。それも、アクセス自由で、国際的で、透明なプログラムが必要です。これは、まだはっきりとはわかっていませんが、今世紀中に気候変動に関する危険性を削減できる大きな可能性があるから言うのです。ただし、このプログラムはガバナンスに関する問題を引き起こし、実際にどれだけの効果があるのかも分かりません。我々はそこで得た情報を次世代に残し、彼らが正しい決断ができるようにする必要があります。これこそが研究プログラムの根本的な存在理由です。

なぜ屋外実験が必要かと言うと、それが研究における正常な手順だからです。環境に関するどのような研究でも、まず理論モデルを丁寧に作り上げ、次に屋外で慎重に実験をすることで、その理論モデルの間違いを見つます。その際には、定量的な実験を入念に管理して実施し、予測のどこが間違っていたかを知らなければなりません。

私は、これを地球工学の実験だとは捉えていません。一般的に実験とは、採用を考えているシステムに対して、それが正しく動作するかどうか試験的に実行してみることでしょう。でも、それは私たちがやっていることとは全く違います。現時点では、システムが完成しても実際に採用するのは余り …

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