ARがついにブレイク?99ドルのホロレンズ風スマホゴーグル
99ドルで購入できるスマホ装着型の拡張現実(AR)ヘッドセットが登場する。ホロレンズのように現実にバーチャルの物体を重ねることもできる。ARヘッドセットとして初のヒット商品となるのだろうか。 by Rachel Metz2017.07.20
あるスタートアップ企業が、無線接続方式でシースルータイプの拡張現実(AR)用ヘッドセットを生産開始する準備を進めている。アイフォーンに対応し、価格は99ドル。プログラマーや、現実世界でバーチャル物体に触れることに興味はあるが、マイクロソフトのホロレンズ(HoloLens)のように高価なヘッドセットにはお金を払いたがらないアーリーアダプターをターゲットにしている。
ミラ(Mira)社製のARヘッドセット「プリズム(Prism)」は、サムスンのギアVR(Gear VR)のAR版といったところだ。Gear VRはサムスン製スマホを本体に装着すると、ユーザーが実質現実(VR)を体験できる仕組みだ。プリズムの場合、VRにおける3D表示と同じように、スマホの画面から片目ずつ別々な画像を眼の前にある透明レンズに投影させることで、現実世界にバーチャルな物体が立体的に存在しているように見せる。
アイフォーン内蔵のセンサーを利用するので、ヘッドセットは頭の動きが追跡できる。さらに同梱のリモコンは手の動きや速度を認識するので、レーザー銃や魔法の杖などとして使える。
ミラは7月18日からソフトウェア開発者向けにヘッドセット注文の受け付けを開始し、秋に出荷する予定だ。ヘッドセットが一般消費者向けに発売されるのは、年末になるという。ロサンゼルスに本社を置くミラの狙いは、自社のソフトウェア開発者向けキットを利用してヘッドセット向けアプリを開発してもらうことだ。すでに複数のコンテンツ企業と協業して、ゲームなどのさまざまなソフトウェアを開発する話が進んでいるという。
ミラの創業は2016年のことで、当初は3Dプリンターで作った部品を使って試作品を組み立てていた。レンズはアマゾンで見つけた壁掛け式の金魚鉢からくり抜いたものだった。創業者たちが計算して必要だと考えた湾曲具合や光学的性質にピッタリとマッチしていたのだ。金魚鉢を使った試作品を公開して、ミラは150万ドルものシード資金の調達に成功した。セコイア・キャピタル(シリコンバレーの名門ベンチャーキャピタル)が主な出資者だ。現在ミラでは、調達した150万ドルを使って、完成した製品を製造中だ。
共同創業者のマット・スターンCOO(最高執行責任者)とベン・タフトCEO(最高経営責任者)が、サンフランシスコでヘッドセットを披露してくれた。まだ完成度の低い宇宙空間ゲームアプリのデモ版で遊んでみたが、体を回転させて架空の銀河に漂うドーナツ星人を撃ったり、小型のロケットを狙って撃ち落としたりする内容だった。
ミラは、紙の上にバーチャル物体を置くような仕組みの開発を進めている。アイフォーンのフロントカメラを利用して現実の紙を認識させ、その上に3Dのバーチャル物体を置くことができる。たとえば、テーブルの上に置いた紙にチェス盤とコマを投影させ、その周りを歩き回ったり、複数の人に違う角度から眺めてもらうことが可能になるだろう。
プリズム・ヘッドセットのリモコン操作は、若干厄介だった。しかし周りを見回したり、テーブルに貼り付けたバーチャル物体の周りを歩き回った時も、映像はかなり安定していた。Bluetooth接続で複数のプレイヤーがVR空間で対戦できるので、タフトCEOとパックマンのようなゲームを楽しんだ(その間、スターンCOOは自分のアイフォーンのディスプレイ上で、われわれ2人の対戦を見ることができた)。
VRもARもまだまだ初期の段階にある。だからミラも販売には苦戦するだろう。ギアVRやグーグルのデイドリーム・ビューVR(Daydream View VR )といったスマホ接続型ヘッドセットは、コンピューターに接続する必要のあるヘッドセットよりは人気がある。しかし、テック市場調査会社IDCの調査結果によると、2017年第一四半期のヘッドセット出荷台数は、総計でわずか230万台(ほとんどがVR用)にとどまっている。
市場調査会社ガートナーのアナリスト、ブライアン・ブラウ副社長(調査部門担当)は、大手メーカーの悩みの種となっている大きな問題として、スマホ接続型ヘッドセットは高品質なコンテンツが充実していないことを指摘する。「ミラはこの先、苦労することになると思います」。
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クレジット | Image courtesy of Mira Labs |
- レイチェル メッツ [Rachel Metz]米国版 モバイル担当上級編集者
- MIT Technology Reviewのモバイル担当上級編集者。幅広い範囲のスタートアップを取材する一方、支局のあるサンフランシスコ周辺で手に入るガジェットのレビュー記事も執筆しています。テックイノベーションに強い関心があり、次に起きる大きなことは何か、いつも探しています。2012年の初めにMIT Technology Reviewに加わる前はAP通信でテクノロジー担当の記者を5年務め、アップル、アマゾン、eBayなどの企業を担当して、レビュー記事を執筆していました。また、フリーランス記者として、New York Times向けにテクノロジーや犯罪記事を書いていたこともあります。カリフォルニア州パロアルト育ちで、ヒューレット・パッカードやグーグルが日常の光景の一部になっていましたが、2003年まで、テック企業の取材はまったく興味がありませんでした。転機は、偶然にパロアルト合同学区の無線LANネットワークに重大なセキュリテイ上の問題があるネタを掴んだことで訪れました。生徒の心理状態をフルネームで記載した取り扱い注意情報を、Wi-Fi経由で誰でも読み取れたのです。MIT Technology Reviewの仕事が忙しくないときは、ベイエリアでサイクリングしています。