イーロン・マスクは、私たちみんなを宇宙に送り込んで、世界中に電気自動車を走らせたいのかもしれない。しかし、テクノロジー全般に関して熱心というわけではない。とりわけ、機械学習について非常に懸念しているのは周知の通りだ。過去に、汎用的な知性を備えた人工知能(AI)の開発は「悪魔を召喚する」所業に等しいという持論を述べたこともある。今回、米国の州知事たちに対して再び同じことを主張し、AIを規制するように訴えた。それも今すぐにと。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、2017年7月15日にロード・アイランド州で開かれた全米知事協会(National Governors Association)の会合でテスラのイーロン・マスクCEOは、AIが「人類文明が直面している最大のリスクである」と述べたという。同じ気持ちを抱えているテクノロジー評論家は数こそ少ないが、大きな影響力を持っている。 しかし、ポール・アレン人工知能研究所(Ai2)の最高経営責任者(CEO)であるワシントン大学のオレン・エチオーニ教授(コンピューター科学)は、MITテクノロジーレビューの記事で、AIが危険かどうかについてはもっと議論する必要があると主張している。
たとえその通りだとしても、マスクCEOは、自分が考えるところの現在進行中の脅威が手遅れになる前に、議員たちに何らかの対策をさせたいようだ。講演録を読むと、かなり強烈な言い回しで意見を述べた様子が伝わってくる。
「ロボットが街中で人間を殺すのを見るまで、一般大衆はどう反応すべきか分かりません。なぜなら現実味が乏しいからです。私は、AIは前もって規制をかけるべき、まれな事例の1つだと考えています。何かが起こってからAIに規制をかけようと議論しても手遅れだと思うからです」
AIが世界にもたらす影響について考えておく必要があることには議論の余地がない。しかしAI推進派には、規制をかけるのは時期尚早という見方が多い。機械学習ソフトウェアはいくつかの特定の分野、たとえば音声認識、翻訳、 画像認識などで人間に匹敵する能力を備え始めている。しかし、こういった分野のテクノロジーを組み合わせても、マスクCEOが懸念するようなより汎用的なAIが実現するのはまだまだ先の話だ。
マスクCEOのあまりに切迫した様子にショックを受けた州知事もいた。たとえば、アリゾナ州のダグ・ダシー知事は、「AIが何なのかもわからないうちに」AIに規制をかけるべきだと聞かされて「びっくりした」と述べた。実際、マスクCEOは議員たちの説得に苦労するだろう。議員たちは慣習として、法制化を検討する前の段階で、何を規制する必要があるのか、ある程度理解する必要があるからだ。
現状に対するマスクCEOの見解はどうなのだろうか。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「政府は現時点では、考えようとさえしていません。人々がいずれ多大な恐怖感を抱くことになるという認識を今すぐ持つべきです」とマスクCEOが述べたと報じている。
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