KADOKAWA Technology Review
×
The Gaping, Dangerous Hole in the Trump Administration

政策決定に科学的助言は不要!トランプ政権の危機対応能力が危機

ホワイトハウス科学技術政策局の科学を担当する部門は現在、完全に職員のいない状態になっている。トランプ大統領が科学顧問を持たずに国を治めようとしていることは、自身の政治的目標の実現だけでなく、危機に直面した時のホワイトハウスの対応能力にも支障をきたす可能性がある。 by Mike Orcutt2017.07.11

ドナルド・トランプ大統領が大統領行政府内に科学顧問を持たずに国を治めようとしていることが明らかになりつつある。この決断はトランプ大統領自身の政治的目標の実現だけでなく、危機に直面した時のホワイトハウスの対応能力にも支障をきたす可能性がある(「トランプ次期大統領には科学的思考が必要だ」を参照)。

2017年6月30日の報道によると、ホワイトハウス科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy=OSTP)の科学担当部門には現在、完全に職員がいない状態だという。これは、トランプ政権下のホワイトハウスが、日々の政策決定に科学とテクノロジーの専門家を関与させるのに関心がないことを改めて示すものである。OSTPの科学担当の上級職はすべて欠員状態であり、いまだに局長すら存在しない。匿名の政府職員は、大統領行政府には「今でも数多くの博士号取得者が科学担当の職員として働いている」とScientistに話したが、職員が100人以上いたオバマ政権時代と比べ、トランプ政権下のOSTPは現在たった35人の職員だけで構成されている。

連邦議会はOSTPを1976年に創設した。OSTPの任務は、科学やテクノロジーの政策に関するさまざまな政府機関から独立して大統領に助言を与え、ホワイトハウスの政治目標の実現に向けて各機関の動きを調整することだ。とりわけ、オバマ政権下のジョン・ホルドレン科学顧問が率いたOSTPは、がん神経科学個別医療に重点を置く生物医学的研究構想の陣頭指揮を執った。さらに、連邦航空局と協力し、新しい法律を起草して制定させ、米国の商用ドローンの市場を開拓した。バラク・オバマ大統領は、直接助言を与えてくれるホルドレン科学顧問を非常に頼りにしていた。

オバマ大統領による科学とテクノロジーに関する構想の中には、適確医療イニシアチブやがんムーンショットなど、依然として議会から資金提供を受けているものもある。しかし、トランプ政権下のOSTPがこのようなプロジェクトの管理をどの程度引き継ぐのかは定かでない。ホワイトハウスはこの件へのコメントを拒否した。

OSTP設置の際に定められた法律は、大統領が局長を任命することを義務付けており、上院が承認する必要がある。トランプ大統領はいまだに局長を任命しておらず、近いうちに任命が行われる兆候すら認められない。他の分野においてもトランプ政権はなかなか職員を任命できずにいるが、過去の基準からすると、まだ多少時間的な余裕がある。ジョージ・W・ブッシュ大統領時代にOSTP局長を務めたジョン・マーバーガーが役職に就いたのは2001年9月だった(ブッシュ大統領の任期は2001年1月から)。一方でオバマ大統領は、大統領就任式の前にホルドレン科学顧問を任命した。

トランプ大統領が実際にOSTPの局長を任命する際、その役職にどれほどの地位と影響力を与えるかはトランプ大統領次第である。マーバーガー科学顧問とは異なり、ホルドレン科学顧問は、大統領補佐官というもう1つの肩書を持っていた。その明確な地位がなければ、科学顧問は成果を出すのに苦戦するだろう、とホルドレン元科学顧問は言う。

「大統領補佐官はいつでも大統領にメモを渡せて、いつでも大統領と面会できます。大統領が質問するのを待つのではなく、ある事項に対して大統領の注意を促すことができます」

ホルドレン科学顧問は、就任時にOSTPの職員を45人から135人まで増やした。それは、オバマ大統領が「科学とテクノロジーが自身の政策課題に情報をもたらすことに非常に関心を持ち、熱心だった」からだという。2010年にメキシコ湾で起きたBP社の石油掘削施設ディープウォーター・ホライズンからの原油流出事故、2011年の福島第一原子力発電所事故、2014年に始まった西アフリカにおけるエボラ出血熱流行などの危機を迎えた時、オバマ大統領はホルドレン科学顧問やOSTPの他の専門家たちに頼った。ホルドレン科学顧問が率いるOSTPはホワイトハウスの行政管理予算局とも密接に連携し、大統領の年度予算の策定に関わった。科学顧問による科学とテクノロジーの助言を受けないことが、トランプ政権の予算に「かなり顕著に反映されて」いるとホルドレン元科学顧問は言う。実際、トランプ政権の予算は科学と医学研究への支出の大幅削減を打ち出した

ホワイトハウスが科学的専門知識や技術的専門知識を持てば、大統領が緊急時にタイムリーな援助を受けられるだけでなく、科学やテクノロジーの政策に関連する数多くの機関や局をまとめる能力も確保される、とホルドレン元科学顧問は言う。OSTPがなければ、大統領は、それぞれに政策課題を抱えたさまざまな閣僚や局長に頼らざるを得ない状態になるだろう。科学顧問の職務は、関連情報を取り入れ、大統領が自身の政策課題を背景にして、その情報を理解できるように援助することなのだ。

もっともそれは、科学的な助言を受けることが、大統領の政策課題に最初から存在する場合にのみ成り立つのだが。

人気の記事ランキング
  1. Why handing over total control to AI agents would be a huge mistake 「AIがやりました」 便利すぎるエージェント丸投げが危うい理由
  2. OpenAI has released its first research into how using ChatGPT affects people’s emotional wellbeing チャットGPTとの対話で孤独は深まる? オープンAIとMITが研究
  3. An ancient man’s remains were hacked apart and kept in a garage 切り刻まれた古代人、破壊的発掘から保存重視へと変わる考古学
タグ
クレジット Photograph by Pool | Getty
マイク オルカット [Mike Orcutt]米国版 准編集者
暗号通貨とブロックチェーンを担当するMITテクノロジーレビューの准編集者です。週2回発行しているブロックチェーンに関する電子メール・ニュースレター「Chain Letter」を含め、「なぜブロックチェーン・テクノロジーが重要なのか? 」という疑問を中心に報道しています。
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る