クリーン・エネルギーでも
変わらない
地元住民のジレンマ
再生可能エネルギーの需要は高いが、供給能力は低い。浮体式洋上風力発電は環境への影響は小さいとされるが、コストが高く中止に追い込まれたこともある。しかし、行政による再生可能エネルギーの後押しもあり、高コストでもビジネスになる可能性がでてきた。しかし、地元住民にすれば、自分の海ではやめてくれということになる。結局のところ、誰が再生可能エネルギーを推進するのか、難しい問題が洋上を漂うことになる。 by James Temple2017.09.15
カリフォルニア州セントラル・コースト沿いのモロ・ベイにある静かで美しい港の北部には、地元住民から「三指の敬礼」として知られる3本の大きな煙突がある。
60年前に建てられた電力会社ダイナジー(Dynegy)の天然ガス・プラントは、2014年に閉鎖されたものの、解体工事に数千万ドルが必要となるため、いまだにモロ・ベイの町を見下ろしている。だが、この1950年代の遺産が、まったく新しい未来のエネルギーをもたらすかもしれない。
シアトルのスタートアップ企業、トライデント・ウィンズ(Trident Winds)は、世界最大の浮体式洋上風力発電所の建設計画を発表した。カリフォルニア州の送電網に1ギガワットの電力を供給する60基から100基のタービンを、モロ・ベイから北西53キロメートル沖に設置するというものだ。閉鎖されたダイナジーの発電所にはパシフィック・ガス・アンド・エレクトリック(PG&E)の変電所が隣接し、大容量の送電線が接続されている。この海域を建設候補地として選んだのは、閉鎖施設を再利用すれば、カリフォルニア州全体の家庭や商工業施設に電力を供給できるからだ。
つい最近まで、洋上風力発電は西海岸ではまったくビジネスとして成り立たなかった。大陸棚が急に落ち込んでいるため、海底に通常の基礎を建設するだけで非常に高いコストがつくからだ。だが、浮体式プラットホームに巨大化する風力タービンを設置する技術が進み、新しい可能性が見えてきた。特に再生可能エネルギーの電力比率を高める目標を掲げるカリフォルニア州では、たとえ化石燃料より安くなくとも、目標達成のために再生可能エネルギー比率を上げなければならない。
エネルギー効率の改善と温暖化ガス排出削減を推進するカーボント・ラスト(Carbon Trust)の2015年の報告書によれば、浮体式洋上風力巨大プロジェクトにかかる総コストは、1メガワット時あたり約110ドルから123ドルだという。天然ガスのコストよりは高いが、すでに着床式洋上風力のコストまで下がってきている(「Floating Wind Farms: Great Concept, Implausible Economics」 参照)。また、モロ・ベイなどのプロジェクトが実際に建設されるまでには、タービン技術が向上しスケールメリットも出てくると見込まれ、さらにコストを引き下げられるだろう。モロ・ベイ・プロジェクトを計画するトライデント・ウィンズを創業したアラ・ワインスタインによれば、浮体式ならば着床式よりもさらに沖へ出られるため、大きな風力を得られ環境への影響も最小限に抑えられるという。
風力発電によるより大きなエネルギーの可能性、価格の下落、再生可能エネルギーを後押しする政策などの要素が揃えば、もしかすると、莫大な量のクリーン・エネルギーをもたらす新エネルギー分野として有望な風力発電が、ついに産業として成り立つかもしれない。
長いことハネウェルのエンジニアとして働き、再生可能エネルギー関連スタートアップ企業を3社立ち上げたワインスタインは、「私ならすぐに建設します。浮体式は洋上風力発電の未来です」という。
守るべきは何なのか
この浮体式洋上風力発電所建設計画の如何に関わらず、そして建設を進めるがトライデント・ウィンズか別の企業であるかに関わらず、計画がきっかけとなり非常に重要なことが動き出していた。カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事が、米国内務省に要請して海洋エネルギー管理局(BOEM)と共同で州立プロジェクトチームを結成し、カリフォルニア州沿岸沖に風力発電施設建設用地を策定するための正式なプロセスを立ち上げたのだ。
2017年末までにプロジェクトチームによって候補地リストが作られる予定だと、BOEMのジョウン・バーミンスキー太平洋地域担当部長はいう。候補地の環境に関して高度な調査をした後、政府は風力発電会社による建設候補地の競争リース入札を実施する。モロ・ベイ海域の入札では、トライデント・ウィンズのほかにノルウェーのエネルギー企業スタトイル(Statoil)も手を挙げている。 …
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