クリーン・コールの概念を実証する最大規模の取り組みだった、ミシシッピ州ケンパー郡にあるケンパー石炭火力発電所は約束を果たせていない。ケンパー発電所が取り組んでいた二酸化炭素回収技術は、費用も高額で厄介すぎることが明らかになっており、同発電所ではクリーン・コールをやめて天然ガス発電に切り替える予定だ。
ケンパー発電所は、2010年に建設が始まって以来、数多くの期待を背負ってきた。理屈は簡単だった。近隣に埋蔵する褐炭(低品質な石炭)をクリーンに燃焼できる施設を建設できれば(発熱量に対する炭素排出量は炭種の中で最も大きいが)、アメリカのエネルギー生産で石炭を利用する将来は明るいという話だ。
残念なことに、現状は理屈通りに進んでいない。ケンパー発電所のプロジェクトは開始当初から窮地に陥っており、当初の予算を40億ドルも上回った総事業費は75億ドルにも達し、二酸化炭素回収の構想は計画から3年も遅れている。ニューヨークタイムズの記事によると、発電所を所有するサザン・カンパニーは、ミシシッピ州公益事業委員会から天然ガス発電への切り替えと赤字の食い止めを要請され、計画通りに事業を進めることを諦めたという。
ケンパー発電所では褐炭をガス化して、天然ガスの燃焼時と同程度の二酸化炭素を排出する燃料を生産することになっていた。エネルギー分野の専門雑誌パワー(Power)に掲載された石炭ガス化複合発電の説明によると、理論上、単に石炭をそのまま燃焼させた場合と比べて二酸化炭素の排出量を65%も削減できることになっているという。
しかし、ガス化のシステムは当初の計画通りに進んでおらず、ケンパー発電所では褐炭をやめて天然ガスを燃焼させている。現時点だけでなく、引き続き天然ガスを利用する予定だ。サザン・カンパニーは、建設中の施設での石炭ガス化に向けた「作業やオペレーションを直ちに停止する」という。
こうした動きは、クリーン・コールにとって大きな痛手だ。化石燃料発電所から二酸化炭素排出量を削減する取り組みはある程度うまくいっているにも関わらず、全体的に見ると、規模を拡大しながら取り組むのは費用が高額すぎると考えられている。こういった考えは、再生可能エネルギーの価格が急速に下落し続けている状況を踏まえるとなおさら納得がいく。気候変動政策財団(the Global Warming Policy Foundation)が最近発表した分析によると、クリーンエネルギーの費用が下落していく一方で、二酸化炭素回収計画にかかる費用は高額すぎてこれからも抑えることができないという。
化石燃料産業を再び活性化させようとする取り組みの一環として、今年初めドナルド・トランプ大統領は、現政権で「石炭戦争に片を付け」、アメリカは「クリーン・コール、そうだ本物のきれいな石炭」を生み出すと語った。今となってはトランプ大統領の発言は、ますます口先だけの約束のように聞こえる。
(関連記事:The New York Times, The Bottomless Pit: The Economics of Carbon Capture and Storage, “クリーン・コールに懲りない 米歴代政権の闇,” “二酸化炭素を9割回収 夢の石炭火力発電所の問題点,” “Clean Energy Is About to Become Cheaper Than Coal“