過去数十年間に信じられないほどの経済・社会的変革を経てきた中国。人工知能(AI)がもたらす変化は、この国にどんな影響を与えるのだろうか?
中国に数週間滞在し、最先端のAIテクノロジーと製品について、研究者や起業家から話を聞いた。
中国の研究者の野心の高まりや、テック業界全体の活況ぶり以上に印象的だったのは、AIが国内雇用を減少させる可能性について、多くの人々が異口同音に指摘したことだ。数年前には、AIによる雇用減少はあまり大きな問題とみなされてはいなかった。しかし 今やこの問題は、業界カンファレンスの質疑応答やパネルディスカッションの場で、定期的に議題に上るようになっている。
これは、数年間の目覚ましい躍進のあとで中国の経済成長が停滞している現状の反映なのかもしれない。しかし同時に、世界レベルの賢明な起業家とイノベーターたちの間に広まりつつある、ある認識の反映とも言えそうだ。その認識とは、AIが経済と社会に深刻な影響をもたらすことが現実味を帯びてきたというものだ。
中国で最も有名で影響力の大きいテクノロジストたちからは、その思いが明確に読み取れる。
6月19日の週にデトロイトで開かれたアリババ(Alibaba)主催のイベントで、同社のジャック・マーCEO(最高経営責任者)は、AIは中国と米国で多くの労働者から仕事を奪うかもしれず、そのため両国間の関係が悪化し、武力紛争が生じる恐れもあると述べた。中国と米国の間で紛争が起きる可能性はいくつかの新刊本の主題となっているが、技術の推移が状況をさらに複雑にする可能性については触れられていない。
6月24日に、ニューヨーク・タイムズ紙に説得力のある論説記事が掲載された。技術専門家であり、起業家、教育者、そして自ら立ち上げたベンチャーキャピタルシノベーション・ベンチャーズ(Sinnovation Ventures)が運営するAI研究所の所長として名高いカイフー・リー(Kai-Fu Lee)博士は記事の中で、AIは今後数年間で大規模な雇用喪失を引き起こすだろうと主張している。
リー博士もまた、AIの影響が世界格差の悪化を招き、国際関係が再編成される可能性を指摘しているのだ。中国と米国は雇用喪失に見舞われる一方、AI分野でかなり優位にあることから、テクノロジー革命の主たる受益者として頭角を現すだろう。両国はAI技術に基づく大国としての地位を築く可能性がある。何億人もの人々からデータを収集したり、ソフトウェアを用いて人々の生活にあらゆるサービスを提供したりすることで、莫大な富を手にするかもしれない。これに対し、他の国々は、世界秩序における自国の立ち位置を再考しなければならなくなるおそれがある。
もちろん、自動化とAIが経済と社会にどういった影響を及ぼすのか予測することは非常に難しい。しかし、中国と米国の雇用と経済における今後数年の展望が非常に重要になってくる中で、一般見解として、おそらくはこの不確実性そのものが不安の種なのだ。
(関連記事:“China Is Building Robot Army of Model Workers,” New Yorker, New York Review of Books, CNBC, New York Times)