なめらかな造形の機械式アームが、カリフォルニア州レッドウッドシティーにあるカーボン(Carbon)の研究所のプールに沈み込んでいく。プールは、乳白色で灰色のインクのような液体で満たされている。黒いアームがゆっくりと上昇し、光沢のあるインク状の液体に濡れた格子構造の合成樹脂製の立方体を引き上げる。それは、骨の多孔質構造を示す大型モデルである。
その様子を見つめるのは、高分子化学者でありカーボンの共同創業者でもあるジョゼフ・デシモン最高経営責任者(CEO)だ。彼はこの一連の機械の発明に貢献したが、今でもその動作を見るのを大いに楽しんでいる。これは3Dプリンティングの一種だが、従来の手法よりも高速で、より多様な合成樹脂に対応する革新的な技術である。プリンターが乳白色の液体のプールから生成物を滑らかに引き上げていく様子は、すでに完成された構造物が出現してくるような錯覚を与える。しかし、実際にはこの液体は光感応性の前駆体物質であり、デジタルプロジェクターが格子構造の合成樹脂立方体の底面に紫外線を連続的に照射している。これは合成樹脂を硬化させて生成物を形成する2段階プロセスの第一段階である。
カーボンは、ポリウレタンやエポキシ樹脂といった高性能な高分子材料を用いて生成物を迅速に3Dプリンティングする手法を採用している、設立4年の企業である。従来のように合成樹脂を層ごとに積み重ねる方式とは根本的に異なり、連続的なプロセスによって生成物を形成するアプローチを追求している。従来方式では層構造のため品質に制約があるが、カーボンの手法はこれを回避する。デシモンCEOによれば、同社のプリンターは従来より数千倍高速で高分子材料を成形でき、使用できる材料も、ゴムのような弾性体(エラストマー)から耐久性のある硬質樹脂まで、格段に広がっているという。
3Dプリンティング技術は1980年代から存在している。従来の技術では不可能だった複雑な構造の物体を簡単に生成できる可能性や、医療機器やアパレル製品を紙に印刷するかのように個人がカスタマイズして製作できる可能性に、多くの関心が寄せられてきた。しかし、印刷速度の遅さと使用できる材料の限界という2つの課題により、3Dプリンティングは長らくニッチな技術にとどまっていた。近年では、強度の高いナイロン部品をプリントできる3Dプリンターを手掛けるHPや、複数の金属合金を扱えるデスクトップ・メタル(Desktop Metal)のような企業が、印刷速度の向上と産業用途に適した材料の使用により、製造技術としての実用性を高めようとしている。そんな中、カーボンもこの急速に拡大する分野に参入した。GEベンチャーズやグーグル・ベンチャーズ(Google Ventures)などから総額2億2200万ドルの出資を …