内需完結の米国企業に
開国を迫る
アリババ会長の真意
アリババのジャック・マー会長が米国の中小企業を口説いている。内需だけで事業が成り立つ米国の小売業に越境を促し、高品質な「メイド・イン・USA」商品を求める中国人の旺盛な需要に応えるのが目的だが、米国人に根強い「中国は生産地」との意識を変える必要がある。 by Emily Parker2017.08.23
電子商取引大手アリババのジャック・マー会長は6月下旬、中国での電子商取引が米国の中小企業を救うと説くため、デトロイトに乗り込んだ。中国人億万長者のマー会長は、米国人企業家たちを大きな目標に向かって奮い立たせようと、TEDのプレゼンのようなスタイルで巨大なステージ上を歩き回った。アリババは曖昧でも控えめでもないことで知られている。このカンファレンスはその期待に応えた。トークショーの司会者チャーリー・ローズ、ライフコーディネーターとして著名なマーサ・スチュアートが登場し、空中から吊り下げられたドラム奏者の一団が演奏するパフォーマンスまであった。
米国の中小企業は中国を視野に入れたビジネスを展開すべきというマー会長の考え方は、少なくとも理屈としては正しい。2015年までに中国のオンライン小売市場は世界最大となり(米国の1.8倍)、消費者向け越境電子商取引市場は、400億ドルに及んだ。可能性は拡大している。5年以内に、中国の中間層は6億人以上に達すると予想され、米国企業が中国市場に売り込むのはインターネットのおかげでかつてないほど容易だ。
カリフォルニア州ランチョクカモンガのファミリー企業、タイムレス・スキン・ケア(Timeless Skin Care)のベロニカ・ペダーセンCEOに話を聞いてみた。アンチ・エイジングの美容液やクリームを販売するタイムレスは、販売代理店とともにアリババ傘下のタオバオ・グローバル(淘宝全球購)のショッピングサイトで中国市場向けに商品を販売している。タイムレスによれば、昨年の売上高は500万ドル弱で、その半分以上が中国市場での売上だった。ペダーセンCEOは自社を「零細電子商取引企業」と呼ぶ。従業員約20名のタイムレスは、中国を征服しようとしているわけではない。ペダーセンCEOは「中国市場の1%でも開拓できたら、中国でビジネスをしていると言って良いでしょう」という。
アリババは230億ドル近い売上高を誇る世界一の小売流通企業だと主張する。米国製品は昨年、アリババのTモール(天猫)の輸入品カテゴリーで第2位になった。よく売れているカテゴリーには衣料品、生鮮食品、ママとベビー用品、健康補助食品、電子機器などがある。中国人消費者の多くは、食品や製品の安全性を心配することにうんざりしている。中国人消費者も偽物のビタミン剤や危険なベビー用品は欲しくない。「米国産」ラベルは品質を保証する。ペダーセンCEOは「中国人消費者は米国人消費者よりずっと生産地を気にしています。私たちの中国市場での戦略は『メイド・イン・USA』です」という。
タイムレスは、デトロイトで開催された「アリババ・ゲートウェイ '17」で紹介された成功例の1つだ。約3000社が参加したこのカンファレンスは、中国での商品販売に関するノウハウを得たい中小企業や農業経営者が対象だ。基調講演と分科会では中国でのビジネスチャンスを取り上げ、アリババを利用した効果的な販売方法の提案があった。
今年初め、マー会長はドナルド・トランプ大統領と会談し、米国で100万人の雇用を創出するつもりだと話した。このカンファレンスはその約束を果たすための第一歩というわけだ。デトロイトでマー会長は「中小企業100万社をネットで支援し、それぞれの企業が雇用を1人創り出せれば、全体で100万人以上の雇用を生み出せるのです」と話した。
これら企業のすべてをアリババが支援するのは容易ではない。それもその動機が思い当たらない。少なくとも今のところ、中国政府や米国政 …
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