ウィリー・ウォンカが目指した移動手段が現実になった。新タイプのエレベーターは、リニアモーターカーやハイパーループのように、リニアモーターでカゴを動かして人々を上下左右に運ぶ。
ドイツのエンジニアリング企業ティッセンクルップが 2014年に初めてマグレブ・エレベーター(磁気浮上型エレベーター)の構想を発表した時には、興奮と懐疑が入り混じった反応で迎えられた。それから3年経った今、ドイツのロットバイルにある専用のエレベーター実験棟で、初のマグレブ・エレベーターの公開実験が行なわれている。
上の映像で分かるとおり、マルチ(Multi)と呼ばれるそのエレベーターは、ケーブルをいっさい使わない。カゴは、リニアモーターの技術が採用されたレールの上で動く。ある階に止まると、レールが回転することで上下だけでなく左右にもカゴを移動させることができる。
ティッセンクルップが将来目指すのは、複数の昇降路を隣り合わせに並べるシステムによって、混雑具合を判断しながらカゴが最短時間で移動できるルートをソフトウエアが割り出すというものだ。
マグレブ・エレベーターのテクノロジーを使えば、現在超高層ビルが抱えている大きな問題も回避できる。ワイアードUKが指摘するように、通常のケーブルによるエレベーターでは、一度に490メートルしか安全にカゴを上昇させることができない。したがって超高層ビルでは、人を最上階まで上げるためには多くの昇降路を設置しなければならない。マルチならそうした問題を解決できるうえに、空間の制限もなく、建築家が変わった形状や様式のビルを設計することも可能だ。
ドイツの土地開発業者OVGリアルエステートがすでに導入に踏み切っており、ベルリンに建設予定のイーストサイドタワーへの設置を計画している。しかし、多くのビルが近い将来この手のエレベーターを装備するとは、とても考えにくい。マルチの導入コストは、どうやら標準的なエレベーターの5倍もかかるらしい。残念ながら、不動産業界が今後マルチを積極的に導入できるほど伸びていけるかは不透明だ。