ウーバー(Uber)の共同創業者トラビス・カラニック前最高経営責任者(CEO)は8年前から、自由奔放で破壊的イノベーションを引き起こす起業家として活躍し、世の中に大きな影響を与えた。ウーバーは世界各国の都市で陸上輸送システムに革命的変化をもたらした一方で、既存の規制を無視することも多く、昔ながらのシステムで経営を続けるタクシー会社の懸念、さらに大勢の自営ドライバーの悩みなど眼中になかった。そして競合他社に対する常識的な配慮が欠けていた。
カラニック前CEOがその座を追われたのは先月のことだが、後継者はカラニックよりも現実的な路線を取らざるを得なくなるだろう。ウーバーの次期CEOの行く手には、解決すべき重要な課題が山積している。たとえば、ドライバーたちとの関係を修復したり、主要経営陣の空席を埋めたり、ウーバーの妥協を許さない企業文化を全面的に改革するといったものだ。
「カラニック前CEOは取締役会で独裁者的な存在でした」と、テクノロジー・コンサルタントを長らく務める作家のジェフリー・ムーアはいう。「さしあたっては、ウーバーは以前より周りに配慮し、無難な経営方針を取り、より着実に事業を進める会社に生まれ変わるしかありません」
これは現在の株主(ほとんどがシリコンバレーのベンチャー投資家)にとって、十分納得できる話だ。彼らがカラニック元CEOを追放したからだ。しかし、ウーバーが株式を上場して大成功を収めるには、まだまだ数多くのイノベーションを起こす必要があると、『シェアリング・エコノミー』(2016年、日経BP社刊)の著者であるニューヨーク大学経営大学院スターン・スクールのアルン・スンドララジャン教授はいう。
株式非公開企業のウーバーが将来上場して、現在の企業価値である600億ドルに近づけるには、全世界の市場規模が400億ドルしかないタクシービジネスから抜け出す必要が出てくる。企業価値をさらに押し上げるには、ウーバーはカラニック前CEOの真の目的を達成する必要があるだろう。手軽に利用できるサービスを構築し、消費者が自家用車を買わなくて済むようにすることだ。年間10兆ドルを売り上げる新車や中古車の市場に割って入れば、ウーバーの時価総額はグーグルやフェイスブックを上回ることになるだろう。グーグルやフェイスブックは、自動車 …