テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)が新たなAI研究担当責任者を採用したことは、自動運転のあり方を見直す同社の方針を示唆しているのかもしれない。
先週、マスクCEOによって引き抜かれたアンドレ・カルパシーは、マシン・ビジョン、深層学習、そして強化学習の専門家で、以前は非営利団体「オープンAI」に在籍していた。オープンAIは「安全で汎用性のある人工知能を完成させる」ことを目的とした研究団体で、マスクCEOも資金援助している。
AI業界から注目されているカルパシーは、以前、AI研究の第一人者フェイフェイ・リー准教授とともにスタンフォード大学で研究していた。現在グーグルのクラウド部門主任科学者を務めるリー准教授は、マシン・ビジョンが飛躍的に進化するきっかけとなった、画像データ・セットを開発したことで知られるテクノロジー業界の有名人だ。
カルパシーが持つコンピューター・ビジョンの専門知識が、テスラにとって重要な資産になることは誰もが認めている。しかし、テスラのオートパイロット事業にとってさらに重要なのは、強化学習システムの構築に関するカルパシーの実績だろう。
動物は、良い結果を導いた行動を反復して学習するが、強化学習はこういった動物の学習行動に着想を得て開発された。強化学習は、以前報じたようにプログラミングが難しい動作を行なうコンピューターを訓練する上で有効な手法だ(関連記事「2017年版ブレークスルー・テクノロジー10:強化学習」)。こういった機械学習の手法が、アルファベット(グーグル)の子会社ディープマインドが開発したコンピューター・プログラム、アルファ碁(AlphaGo)の核となり、伝統的なボードゲームである囲碁を超人的なスキルで習得した。
グーグル、ウーバー、そして最近インテルに買収されたモービルアイなど多数の自動車メーカーが、自動運転中に起きたアクシデントを車が自律的に解決する手段として、強化学習に期待している。自動車メーカーらが想定しているのは、たとえば複雑な状況下ではどのように運転すればいいのかといった判断だ。全方向一時停止の十字路や、混み合った交差点を思い浮かべてほしい。そのような状況下で自動運転する際のルールを明確に規定するのは困難だ。しかし強化学習の手法を用いれば、自動運転車が自ら対処法を学習できるかもしれない。
スタンフォード大学を離れたカルパシーは、強化学習の取り組みを重要課題とするディープマインドで、インターンとして研究に取り組んだ。オープンAIでも、強化学習は大きな研究テーマとなっている。
カラパシーは、強化学習について記述した長文のブログ記事の中で、テスラのオートパイロット事業と強化学習の関係について触れた。強化学習は一般的に実験コストが高くつく研究には適さないとしながらも、新たな手法と(テスラが収集している)数多くの実験データを組み合わせれば、良い結果が得られるかもしれないと述べている。
カルパシーがテスラのAI研究部門長に指名されたことで、自律自動運転が抱える課題にこれまでとは異なった取り組みがされるかもしれない。それでも、問題解決への道のりはまだ遠い(参照「試験中の自動運転タクシーはしばらく試験中のままな理由」)。
(関連記事:TechCrunch)