KADOKAWA Technology Review
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蓄電池ベンチャーが
成功できないこれだけの理由
Daniel Zender
カバーストーリー Insider Online限定
Why Bad Things Happen to Clean-Energy Startups

蓄電池ベンチャーが
成功できないこれだけの理由

蓄電技術を開発するスタートアップ企業を巡って、突然の倒産や自社の売却、従業員の解雇といった悪夢が続いている。蓄電は新しいテクノロジーであり、市場からの投資を仰ぎ、設備を更新し、発展する技術に追いつき、追い越していくために、多くの困難がある。 by James Temple2017.06.23

あらゆる角度から検討しても、アクイオン・エナジー(Aquion Evergy)は成功しているはずだった。

再生可能エネルギー・プロジェクトや送電網用の電池を販売していたアクイオンというスタートアップ企業を創立したのは、材料科学を研究するカーネギー・メロン大学のジェイ・ウィテカー教授。ウィテカー教授は以前、NASAで火星探査車用電池を開発していた人物だ。アクイオンはビル・ゲイツ、ベンチャー・キャピタルのクライナー・パーキンス、シェル石油などから2億ドル近くの出資を受けた。もっとも重要なことは、アクイオンは電池関連のスタートアップ企業が犯してきた間違いをはっきりと認識した上で市場に参入していることだ。希少材料を使わないように取り組み、製造設備も専用ではなく汎用的な設備の用途を変更して使った。そしてニッチ市場を見つけ、成功の足掛かりをつかもうとしていた。

しかし、アクイオンは、2017年3月8日に追加出資の調達に失敗すると、会社更生法を申請し、社員の8割を解雇、製造を中断した。ベンチャー投資家の支援を受けた蓄電池関連スタートアップ企業がつまずいたケースはこれまでにも数件ある。フロー電池と呼ばれる技術を開発していたエンターボルト(EnterVault)は、2015年に新しい投資家を見つけられず、自社を売りに出した。同じ年の後半には、液体金属電池のスタートアップ企業、アンブリ(Ambri)が従業員の4分の1を解雇した。ほぼ同時期に、エネルギーを圧縮空気としてカーボン・ファイバー製タンクに貯蔵する技術の開発に苦労していたライトセイル・エナジー(LightSail Energy)は、タンクを天然ガス・メーカーに販売する方針に転換した。一連のできごとによって、手ごろで実用的な蓄電池の利用という望みは当面なくなってしまった。

これは問題だ。風力発電や太陽発電などの間欠的な発電方式から生まれる余剰電力を低価格で蓄電する方法がなければ、再生可能エネルギーの送電網全体への貢献度は低下してしまう。言い換えれば、気候変動を起こしている温室効果の元になっている排気ガスの削減量も減ってしまう。すでにカリフォルニアの太陽光発電所では、時間によっては送電網内で使い切れない量の電気を作っている日がある。しかし、それでも、太陽が雲に隠れたときに電力総需要をまかなうために、化石燃料を使った予備発電所を稼働させなければならない。

1年前、MITテクノロジーレビューはアクイオンをスマート・カンパニー50社のリストの第5位に挙げている。破産申請では詳細がほとんど明らかにされないので、何が失敗の原因だったかを細部まで読み解くのは難しい。ウィテカー教授は競売が終わるまで取材には応じられないとしているが、競売後にアクイオンや同社のテクノロジーが何らかの形で発展することを望んでいると明言した。

より優れた送電網内蓄電技術への需要がひっ迫しているにもかかわらず、今日、どのスタートアップ企業もさまざまな困難に直面している。まず、高度な送電網向け蓄電を必要とする市場は立ち上がりが遅く、規模がまだ小さい。テクノロジーが成熟しておらず、高コストだからだ。次に、目下のところもっと重要な理由は、リチウムイオン電池で使われている既存テクノロジーの価格が予想よりはるかに早く下落し、アクイオンのような新たな取り組みに、期待したほどの利益が出なかったことがある。

「リチウムイオン電池の次に来るものを期待して、待たない方がいいでしょう」というのは、エネルギー分野の起業家のためのサイクロトロン・ロード(Cyclotron Road、米国エネルギー省の研究開発プログラム)の初代理事長を務めたイラン・グールだ。グール理事長は、以前、ボッシュに買収された電池会社の共同創立者だった。「まだこれから先、数十年は、蓄電はリチウムイオン電池の価格に依存していく可能性のほうがずっと高いのですから」(グール理事長)。

クリーン・エネルギー業界ではよく知られた事実ではある。 …

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