SNSで蔓延するねつ造ニュースは「コスパ最強」と判明
5万5000ドルあれば記者の評判を落とし、20万ドルあれば街頭デモを扇動できることが分かった。ねつ造ニュースは広告よりも安く世論を誘導できる。 by Jamie Condliffe2017.06.15
フェイスブックのフィードのいたるところを見れば、ねつ造ニュースは今や深刻な問題だと分かる。ねつ造ニュースによって生み出された政治的、社会的状況がまるで真実のように扱われてしまっているのだ。サイバーセキュリティ企業トレンドマイクロが新たに発表したレポートでは、ねつ造ニュースによるキャンペーンの運営費用が具体的な金額として示された。明らかになったのは、信じられないほど手頃な費用でニュースをねつ造ができることだった。
ねつ造ニュースで攻撃を開始するには、当然、いくつかのステップが必要だ。第一に、ねつ造ニュースそのものを用意しなければならない。事実に基づく必要はないが、人を引き付ける見出しや、分かりやすい映像がいい。また、潜在的な読者がすでに抱いている偏見やイデオロギーにアピールする必要がある。さらに、ボットや指示通りに動くように雇った実際の人間を使って、ソーシャル・ネットワークを介して世に送り出す。最後に、ねつ造ニュースがターゲットのフィードに溢れるように、「いいね!」やシェアが必要だ(これもボットや実際の人間で実行する)。運が良ければ、これで潜在的読者の真実に対する認識を歪ませることができる。
もちろん、誰だってねつ造に直接関与しているとは思われたくない。そこで、ねつ造ニュースを流そうとしている者は、既存のソーシャル・メディア・ツールを悪用したり、グレー・マーケット会社のサービスにお金を払って仕事をさせてきた。
このほど、トレンドマイクロがこれらのサービスにはいくらかかるのかを洗いざらい調査し、結果を発表した。中国のコンテンツマーケティング企業ジージバング(Xiezuobang)に800語のねつ造ニュース記事を書かせたければ30ドル、ロシア企業SMOサービスに頼んでユーチューブのメインページに2分間の映像を登録するには621ドル、英語を主言語とするフォロワー販売企業クイック・フォロー・ナウ(Quick Follow Now)に依頼して、2500人のツイッター・フォロワーにリンクをリツイートさせるのは25ドル、といった具合だ。
トレンドマイクロはさらに踏み込んで、そのようなサービスを実際に利用し、ねつ造ニュースを煽って現実のできごとのようにするにはどれだけの費用がかかるかを見積もった。
例えば、メキシコの記者アルベルト・エスコリアに実際に起こったような、記者にねつ造ニュースを仕掛けて、記者への読者の信用を失墜させるのはかなり簡単な仕事だと見なされている。4週間にわたって否定的な記事をツイッターのフィードに流し続け、その否定的な記事の1つ1つをそれぞれ5万回リツイートした後、毒のある中傷合戦やその記者に対する否定的なコメントをしかければいいのだ。総費用は、5万5000ドル。
本格的にニュースをねつ造する、人種差別的中傷をめぐるミネソタの座り込みのような場合(実際は架空のものだと判明)は、もっと費用がかかる。このような仕掛けは、論争を巻き起こすような問題に関するオンライン・ディスカッションを開始するのに、実在する人間が1000人ほど必要になるかもしれない。1000人も集まればその議論をさらに盛り上げることができる。ねつ造コンテンツを少しずつ供給し、1つ1つのコンテンツにそれぞれ4万ほどの人為的「いいね!」を獲得させ、ニュース・フィードの上位にするのだ。すると、だんだん本当の出来事のように広まっていき、通常の方法でさらに広告を出稿すれば本物の行動が起こり始め、現実世界に波及するようになる。総額費用はおよそ20万ドルになる、とトレンドマイクロは指摘する。
選挙や国民投票といったより大きなものに影響を与えるとなると、さらに大がかりとなる。ねつ造ニュースの生成、ねつ造ニュースの相互参照を専門とするWebサイト(3~4ほど)、ソーシャル・ネットワークのフォロワー軍団、何百万という有料の「いいね!」、さらにはねつ造ニュースにリンクしている実際のニュースの公開も必要だ。これは作りごとと現実との境界をぼやけさせるためであり、ひょっとしたら真の報道機関に両者を混乱させることができるかもしれないと目論んでいるのだ。
「40万ドルの予算がある12カ月間のキャンペーンなら、少なくともキャンペーンで優先的に主張したい事柄に沿った認識と信念を持つ人々を多数引き付けられるはずです」とレポートには書いある。「しかし、キャンペーンが成功する決定要因は、タイミングです。言い換えれば、実際の決定が下される前に、ねつ造コンテンツがどのくらい早く普及するかという点にあります」。
当然、ねつ造ニュースの影響を弱めようと努力する試みは数多くある。ウィキペディアの共同創設者ジミー・ウェールズはジャーナリズムについての再考がその解決策だと考え、フェイスブックとグーグルは、ユーザーに疑わしいコンテンツに対する警告を出す計画を進めている。しかし、ねつ造ニュースにかかる費用は、数限りない現実コンテンツの広告予算に比べると、ほんのわずかな額にすぎない。こんなに安価にねつ造コンテンツを利用して大衆の認識を形成できる限り、戦いはフェイスブックやグーグルの手にかかっているということだ。
(関連記事:Trend Micro, “We Need More Alternatives to Facebook,” “For Facebook and Google, the Best Way to Fight Fake News Is You”)
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クレジット | Photograph by Justin Sullivan | Getty |
- ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
- MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。