なぜVRはつまらないのか?
実質現実(VR)テクノロジーのブレイクスルーには、ユーザーが使い続けたくなるような「交流」が必要だ。かつて一世を風靡したセカンド・ライフの失敗からも学べることがある。 by Rachel Metz2017.06.27
普通の人はまだVRヘッドセットを持っていないが、私はすでに持っている。私の友人で持っている人はたった1人だけだ。だから私がVRで過ごす時間のほとんどすべての間、私は完全に1人だ。頭の中でデジタル版の回転草(訳注:タンブルウィード、西部劇でよく見かける、風に吹かれて地面を転がる植物)の転がる音が聞こえる気さえする。
これがVRというテクノロジーのおかしなところだ。頭にヘッドセットをかぶって周りから隔絶されて孤独なように見えるが、実はVRは人と交流するのに最高の技術だ。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOが30億ドルを投じてVRヘッドセット・メーカーのオキュラスを買収したのは2014年のことだ。ザッカーバーグCEOは買収の主な理由として社会的相互作用の可能性を挙げていたが、この判断は正しかった。実質現実の提供する他人との一体感は、アイフォーン(iPhone)のフェイスタイム(FaceTime)では決して味わえないものだ。実質現実は世界中に点在している友人や家族との接触をより感情豊かにしたり、実質現実でしか実現できないレベルでの肉体的存在感を感じたりできるからだ。
しかし妙なことに、フェイスブックは、2016年に発売されたオキュラス・リフト(Oculus Rift)ヘッドセットのメリットを最大に生かせるのは「ソーシャル(社交のための)」なアプリケーションだとは考えなかった。基本的には今でもオキュラス・リフトはゲーム・プレイ用、または短い映画の再生用だと考えられている。
2017年4月、フェイスブックは、オキュラス・リフト用に「スペース(Spaces)」というアプリを発表した。これを使うとフェイスブックの友達とVRで交流できる。ただし、かなり単調だ。友達とバーチャル自撮り(セルフィー)をしたり、フェイスブックに載せてある写真を基にアバターをカスタマイズして作ったり、360度ビデオを見たり、巨大なマーカーで3Dのイタズラ書きをしたりできる程度だ。フェイスブックですでに友達になっている相手としか交流できないので、たまたま友達もVRヘッドセットを持っていない限り使いようがなく、ずっと自分1人でいるしかない。フェイスブック・スペースで友達と会ったとしても、ずっとバーチャル・テーブルの回りに立っているしかないので、すぐに退屈してしまう。フェイスブックは、熱烈な初期のVRユーザーを避けるために、アプリの単純化に走りすぎたように見える。
一方で、最近見つけたあるバーチャル社交場が面白い。オキュラス・リフトやHTCバイブ(Vive)用の無料アプリで、「レク・ルーム(Rec Room)」という。レク・ルームのバーチャル空間は高校の体育館を漫画化したようで、ペイントボール(訳注:塗料入り弾丸を使ったゲーム)、ドッジボールなどのゲームを実際の自分の体の動きによってプレイできる。またロッカー・ルームという名の共用ロビーがある(ただしバーチャルで服を着たり脱いだりする場所ではなく、くつろぐための場所だ。着替えはレク・ルームの個人の部屋でする)。ロッカー・ルームでは、友達や未知の人と会ったり、バスケットボールや卓球をすることができる。
レク・ルームには欠点がたくさんあるが、それでもユーザーが本当に没入できる今日の実質現実テクノロジーの実力を示しており、かつてのバーチャル社交アプリ(「セカンド・ライフ(Second Life)」を覚えているだろうか?)が決して達成できなかった人間同士の交流を成し遂げている。人との交流方法はほとんど直感で理解できる。たとえばレク・ルームで友達になるには握手をすればよく、握手すると手に持ったコントローラーからブザー音が聞こえる。私は、VRを使っている友人とレク・ルームでとても楽しい体験をしたが、彼が実生活を営んでいるのは別の国である。私の知る限り、レク・ルームは未知の人たちとの交流アプリとして唯一使いやすく、ヘッドセットを頭からむしり取りたくならないアプリだ。
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