米国の不妊治療医が高齢女性のために起業した会社が、物議をかもしている。治療対象となる女性のDNAを若い女性の卵子に移植して、妊娠させるというのである。
ジョン・チャン(John Zhang)医師は2016年、「紡錘体核移植」と呼ばれる最先端の受胎技術を提供するために、ダーウィン・ライフ(Darwin Life)という企業をひっそりと設立した。チャン医師は、ニューヨークにある不妊治療専門病院「ニュー・ホープ受胎センター」の創業者でもある。
紡錘体核移植はもともと、母親から子どもに希少疾患が引き継がれるのを防ぐために開発された。チャン医師は、紡錘体核移植を使えば若がえらせた卵子を作成することも可能だと語っており、年齢的に妊娠の可能性が劇的に低下する42歳から47歳の女性に対し、「不妊治療」として提供を開始する意向である。
チャン医師は、不妊治療の高度な技術を持った扇動家である。2016年には、精巧な中空の針を用いて、女性の卵子に含まれる染色体をドナーの卵子の染色体と入れ替える手法を初めて、メキシコで成功させた。
チャン医師の手法は、大きな論争を呼んでいる。安全性が立証されておらず、一種の遺伝子操作と考えられるからだ。長い公開討論の末、2017年3月に英国が世界で初めて、同様の治療を臨床で提供することを許可した。しかし、適用が許されるのは、生まれてくる子どもに、生命にかかわる遺伝性疾患のあるリスクが極めて高い場合に限られている。
米国では依然として違法である。チャン医師は、現時点では、海外だけで治療を提供するとしており、可能性のある40歳以上の複数女性に対して評価を実施しているという。
複数の専門家は、ダーウィン・ライフの設立に警鐘を鳴らしている。チャン医師の手法は広く商業化するには新しすぎるし、ドナーからの卵子提供の需要を増大させる可能性があるからだ。
バイオテクノロジーの進歩に疑問を呈する遺伝学・社会センター(Center for Genetics and Society)の事務局長を務めるマーシー・ダーノフスキー博士は、「生物学的に行き過ぎており、危険な方法です」という。「加齢による不妊に適用するというのであれば、本当に、大規模な人体実験につながっていくでしょう」。
米国証券取引委員会に提出された文書によると、ダーウィン・ライフの所在地はニューヨークにあるチャン医師のクリニックの住所と同じであり、最初の投資ラウンドで100万ドルを調達したとされている。投資家が誰であるかは公表していない。
一番乗り
「3人親の赤ちゃん」としばしば呼ばれる手法がある。一人の女性が持つ遺伝子を別人の卵子の若々しい中身、特にミトコンドリアと呼ばれるエネルギーを作り出す構造体と …