パキスタンで気温50度超え、貧困層を襲う気候変動の脅威
5月のパキスタンの最高気温が53.5度を記録した。最近発表されたある論文は、温暖化の進行によって経済格差が深刻な問題となることを示している。 by Michael Reilly2017.06.14
産業革命以前と比較して気温の上昇を2度以内に抑えると地球温暖化が避けられるとすれば、気候変動による最も深刻な被害を防ぐことが可能だと、一般的に考えられている。しかし、インドでは、その数値のわずか4分の1に過ぎない温暖化によって、命にかかわる熱波の発生率が2倍以上に増大している。
サイエンス・アドバンス誌に発表されたある研究によると、インドの夏の平均気温は1960年から2009年の間に0.5度上昇し、100名以上の死者を出す熱波の発生リスクは2倍以上に増加した。論文で述べられている通り、この研究結果は理論上の予想をはるかに超えるものだ。2010年、2013年、そして2015年の猛暑はインド全体でそれぞれ何千名もの死者を出した。2016年5月、北西部の都市ジャイサルメールでインドの史上最高気温が観測されたが、つい先月には近くのパキスタンの都市の気温が53.5度(華氏128度以上)を記録した。5月に観測された気温としては世界史上最高記録だ。
もしこの温暖化が起きている場所が、多くの人々が涼しく過ごせる方法がある地域であれば、さほど危険性は高くなかったかもしれない。しかし、インドでは人口10億2400万人のうち24%の人が1日1ドル25セント以下で生活しており、セントラル方式の空調設備にはとても手が届かない。このような人々こそが今後、そして事実上すでに気候変動から極端に大きな被害を受けており、状況はさらに悪化するだろう。インドの気温は今世紀中にあと2.5度から5.5度上昇すると予想されている。
この論文は、気候変動がいかに世界の不平等を悪化させているか、そしてこの状況を放置した場合、近い将来にどのような結果がもたらされるか、ほんの一面を示したにすぎない。猛暑による直接的な死を免れた人々も、農作物の不作や経済生産性の低下など、より見えにくい形での悪影響に耐えなければならないだろう。
裕福な人や国々は、貧しい人々に比べてこうした変化に順応する体制が整っている。皮肉なのは、豊かな国の一部、特に欧州北部の国では、寒冷な気候が穏やかになることで、むしろGDPの増大効果が得られるかもしれないという事実だ(「気候変動で日本のGDPは35%減少、ロシアは419%増加」参照)。
しかし、世界の趨勢はインドがすでに直面している状況とよく似たものとなるだろう。抜本的対策を講じない限り、膨大な数の人々の暮らし向きが悪化し、多くの人々が温暖化の影響に抗うために必要な支援を欠くことになる。
(関連記事:Science Advances, the Washington Post, “気候変動で日本のGDPは35%減少、ロシアは419%増加”)
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クレジット | Photograph by MANPREET ROMANA | Getty |
- マイケル レイリー [Michael Reilly]米国版 ニュース・解説担当級上級編集者
- マイケル・レイリーはニュースと解説担当の上級編集者です。ニュースに何かがあれば、おそらくそのニュースについて何か言いたいことがあります。また、MIT Technology Review(米国版)のメイン・ニュースレターであるザ・ダウンロードを作りました(ぜひ購読してください)。 MIT Technology Reviewに参加する以前は、ニューサイエンティスト誌のボストン支局長でした。科学やテクノロジーのあらゆる話題について書いてきましたので、得意分野を聞かれると困ります(元地質学者なので、火山の話は大好きです)。