アップルはアマゾンやグーグル製品が家庭に浸透してきていることに対し、本気で対抗しようとしている。
6月5日に開催された、毎年恒例の開発者向けスペシャルイベントで、アップルは「ホームポッド(HomePod)」と名付けたWi-Fiスピーカーの新製品を発表した。ホームポッドは音楽の再生ができ、アップルのデジタル・アシスタント、シリ(Siri)を使った音声コマンドで操作する。12月に349ドルで発売し、アップルの月額10ドルの定額制音楽配信サービス、アップル・ミュージックに対応している。
ホームポッドの発売は、アップルがスマートホーム・アシスタント機器の分野に参入することを意味する。スマートホーム・アシスタントの分野では、現在はアマゾンの「エコー」スピーカーに代表されるアレクサが動作する各種機器や、グーグル・アシスタントが動く「グーグル・ホーム」が圧倒的なシェアを占めている。
ホームポッドにはディスプレイが搭載されていない。その代わり、「ヘイ、シリ!」と呼びかけるとシリが起動して、スピーカー上部に灯りがともる。たとえば、天気や交通状況、スポーツの最新情報を聞くといった、今までのシリの機能を使える。さらにアップルのスマート・ホーム用ソフトウェア「HomeKit」対応のスマート家電を声で操作できる。対応する家電製品はスマート照明、サーモスタット(エアコンなどを制御し家庭内の温度調節をする装置)などさまざまだが、グーグルの子会社ネストのスマート・サーモスタットとは互換性がない。
アップルは2011年にアイフォーン用のシリを公開して、消費者市場向けのデジタル・パーソナル・アシスタントを流行させる大きなきっかけを作った。当時は、声を使って電話をかけたり、天気をチェックしたり、予定を入れられたりできることから、画期的なテクノロジーというイメージを世間に与えた(ただし、質問を理解できる精度が滑稽なほど低い場合もあったが)。シリはもともとSRIインターナショナルが開発したもので、米国国防高等研究計画局(DARPA)が資金提供したCALO (物事を学習し整理できる認知アシスタント:Cognitive Assistant that Learns and Organizes)という人工知能開発プロジェクトの一環だった。その後スピンアウトしてスタートアップ企業となり、2010年にアップルが買収した。
しかし、音声アシスタントを家庭用機器に組み込む点では、アップルはグーグルやアマゾンにずっと先を越されている。それでもいずれ自社製品を売り出すだろうとの見方は多かった。
どちらにせよ、音声アシスタント機器の市場は急速に成長しており、今後も広がり続けると予想される。市場調査会社のイーマーケターが今月出した予測では、スピーカー内蔵の音声アシスタントを使うアメリカ人は2017年中に月平均で3600万人に達し、昨年の2倍を超える見込みだ。市場の約71%はアマゾン・エコーを使い、約24%はグーグル・ホームを使っている。全体の利用者数で見れば、スマートフォンを使う人の数と比べてまだまだニッチな領域だが、成長のスピードは速い。
それでも、アップルがホームポッドを披露したとき(2時間以上の新製品プレゼンの最終段階だった)、アップルは万能型ホーム・アシスタントという側面をあえて控えめに扱った。むしろホームポッドはアップル・ミュージックと連動するスマート・スピーカーであり、シリを搭載しているからついでに別なこともできる、という位置づけだった。
そもそも、ホームポッドという名前からして、音楽再生に特化し続けるアイポッド(iPod)を彷彿とさせる。
「携帯オーディオと同じく、アップルはホームオーディオに革命を起こしたいのです」とティム・クックCEO(最高経営責任者)は述べた。
さらには、アップルのフィリップ・シラー上級副社長(マーケティング担当)がステージに戻ってホームポッドをプレゼンしたときには、持ち時間の大部分を音楽再生性能がいかに優れているかの説明に費やした。搭載しているツイーター(高音用)やウーハー(低音用)のスペックの高さを語り、設置された部屋の音響構造を読み取って部屋に合わせた最適な音で再生するよう自動調整できる点を強調した。
極めつけは、シラー副社長が語ったシリの使いこなし方のほとんどが、音楽再生機能だった点だ。ホームポッドには「もっと甘い感じの曲を再生して」「この曲のドラマーは誰?」といった質問に答えられる、音楽を楽しむためのさまざまな機能が満載されているという。しかし、こうした音楽再生機能が使えるのは定額制音楽配信サービス、アップル・ミュージックを契約している場合に限られる。月額料金を払わなければ、シリはアシストしてくれない。