反テロで英首相が訴える「ネット悪玉論」はどこがおかしいのか
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Theresa May Wants to End “Safe Spaces” for Terrorists on the Internet. What Does That Even Mean? 反テロで英首相が訴える「ネット悪玉論」はどこがおかしいのか

直近のテロ攻撃を受けて、英国のテリーザ・メイ首相はインターネットの規制強化を主張している。だが、その主張はあまりにも短絡的だ。 by Michael Reilly2017.06.08
British prime minister Theresa May addressed the country Sunday, the morning after a terrorist attack in London.
英国のテリーザ・メイ首相はロンドンのテロ攻撃の翌日、4日朝に国民向けに演説した

テリーザ・メイ英国首相のテロ攻撃への反応はもうおなじみだ。首相と保守党は、すべてはインターネットのせいだと言いたいのだ。

悲惨なことに、英国では3カ月弱の間に3件のテロ攻撃が起きた。マンチェスターで2件目の事件が起きた後、メイ首相らは、司法当局が容疑者のユーザーデータにもっと簡単にアクセスできるように、テック企業に対してサービスへの暗号「バックドア」を強制的に設けさせる方法を検討すると発言した。

ロンドンで新たな攻撃があった翌日の4日、メイ首相は、これまでと同じような姿勢を繰り返した。「インターネットと大手ネット企業」は過激派に「安全地帯」を提供しており、「サイバー空間を取り締まる」ための新たな規制が必要だと語ったのだ。首相は具体策は明らかにしていないが、6月8日の総選挙を目前に控えた保守党の路線は明確だ。すでに、英国政府は民主主義国家としては最も強大といえるデジタル監視権限を持っているが、テロを防止するために、より多く、より厳しい法律を必要としている、ということだ(「New U.K. Surveillance Law Will Have Worldwide Implications」参照)。

問題なのは、この種の話ではインターネットと現代の消費者がどのようにテクノロジーを使っているのかを無視していることだ。SF作家のコリイ・ドクトロウが、暗号に不具合があるサービスを実際にどのように実現するか指摘したのは、そんなサービスはほぼ不可能と言っていいほど実現性が低い、ということだ。たとえグーグルやアップルといった商用ソフトウェアやデバイスの提供者が国の求めに応じて必要な技術的措置を講じたとしても、オープンソースのソフトウェアを使ったり、ロックが解除された携帯電話を使ったりすれば、簡単に制限を回避できる。

だからといって、捜査の一環としてユーザーデータを調べる能力を政府に与えるべきだとするメイ首相と保守党の考えを無下に否定するわけではない。国家の安全とプライバシーのバランスを図ることは、現代のデジタル社会の重要なテーマの1つなのだ(“What If Apple Is Wrong?”参照)。どちらの立場の擁護者も山ほどいるが、なかなか簡単に答えは見つからない。

だからこそ、4日のメイ首相の演説は期待外れなのだ。暗号を解除できるようになれば、何らかの方法で悪人を一掃できるという主張はあまりにも短絡的であり、間違いだ。テック企業をやり玉に挙げ、インターネットをテロの温床のように印象づけることは、どうひいき目に見ても、凶悪な暴力行為に対する、なんの役にも立たないワンパターンな反応だ。

たしかにイスラム国(ISIS)のようなテロ集団は、デジタルツールを利用して憎悪に満ちた過激なメッセージを広めている (“Fighting ISIS Online”参照)。そして、ツイッター、ユーチューブ、フェイスブックなどのサービスは、人々が情報を共有する方法に大きな影響を及ぼすようになった。だとすれば、過激派のコンテンツを見つけて削除し、コンテンツを投稿したユーザーのアクセスを禁止する能力を高めるようにサービス業者に求める必要がある。

だがこれは、デジタル社会の危険性を高圧的にもったいぶって説くことで解決するような問題ではない。たとえば、10年以上にわたって、いかなる法を犯すこともなく、イスラム聖戦擁護論を聴衆にじかに訴え続けた英国のアンジェム・チョードリー弁護士を例として取り上げてみよう。ニューヨーク・タイムズによれば、チョードリー弁護士は週末にロンドンを襲った攻撃者の一人に影響を与えた可能性がある。「チョードリー弁護士は、面と向かって過激派組織に勧誘する、実在する過激な伝道師でした」と、キングス・カレッジ・ロンドンでセキュリティを研究しているピーター・R・ヌーマン教授は語っている。チョードリー弁護士は「英国におけるイスラム聖戦ではツイッターやフェイスブックよりはるかに重要な存在でした」。

(関連記事:BBC, The New York Times, BoingBoing, The Guardian, “What If Apple Is Wrong?,” “Fighting ISIS Online”)