オランダ環境相がトランプ大統領に伝えたかったこと
地下資源に恵まれたオランダは再生可能エネルギーに大きく舵を切った。パリ協定離脱を決めたトランプ大統領とは対照的だ。 by James Temple2017.06.05
5月上旬、オランダは世界最大級の集合型洋上風力発電所を完成させた。加速する風力ブームのおかげで、オランダは再生可能エネルギーの目標に向かって大きく前進している。
北海沖に建設された「ジェミニ・ウインドパーク」は150基のタービンを備え、600メガワットの電力をおよそ150万人に供給する。オランダでは他にも大規模な集合型洋上風力発電所が建設中で、2023年までに風力発電量をトータルで4.5ギガワットへと押し上げる計画だ(参照「北ヨーロッパの風力発電は 政治的にクリーンではない 」)。
「化石燃料に極めて依存していた私たちにとって、再生可能エネルギーへの道のりは険しいものでした」。オランダのシャロン・ダイクスマ環境大臣は先週、MITテクノロジーレビューの取材にそう語った。「そこでオランダ政府は、ペースを上げる必要があると決定したのです」。
実際のところ、オランダはパリ環境協定に基づく排出量削減目標だけでなく、欧州協定に基づいて2020年までに再生可能エネルギーの割合を14%にするという厳しい条件を満たすために、大きな一手を打つ必要があった。現在、オランダのクリーンエネルギー源は総発電量の約6%を占めるのみで、他のヨーロッパ諸国の多くと比べても、かなり遅れを取っている。
「地下に豊富なガスがあれば、他を探そうなどとは思わないものです」とダイクスマ環境相は言う。「私たちは天然資源に甘えきっていたのです」。
洋上風力発電は、強い日差しや未開発の土地がなくても、風の強い北海に面しているオランダにとって、理にかなうテクノロジーだった。
先週、気候やエネルギーの問題についてカリフォルニア州との協力関係を促進する長期の「カリフォルニア・ミッション」のために米国を訪れたダイクスマ環境相は、サンフランシスコで開催された「気候はビッグビジネス」サミットで、最近のオランダの再生可能エネルギーの進歩を強調した。
講演の中でダイクスマ環境相は、「95%の二酸化炭素排出量を削減すれば、今後20年で4万5000人の雇用を生み出す」というマッキンゼー・アンド・カンパニーのレポートを引き合いに出し、環境保護の方向へ進むことは新たなビジネスチャンスを作り出す、と力説した。風力発電プロジェクトだけでも、2020年までに1万人の仕事を生み出すと見られている。加えて、これらのプロジェクトを押し進めるのに必要な政府からの援助の額も急速に低下してきている。
オランダや近隣諸国で風力発電量が増えてきている中、オランダは国内の電車のすべてが100%風力発電による電力で運行していると1月に発表した。予定よりも1年早い達成だ。
気候変動に関連してもたらされるビジネスチャンスについていえば、オランダは適応性の面で競争に有利な立場にあるということだ。低地にあるオランダは、堤防、ダム、その他のインフラを建設し、何十年も洪水に備えてきた経験があり、2000人の犠牲者が出た1953年の北海大洪水以降は特に力を入れてきた。世界中の沿岸都市の海面上昇に対抗する方法を模索してきた都市プランナーは、アムステルダムやロッテルダムに施された独創的な分水工事や貯水工事に注目している。洪水時には水を溜めておくことができるくぼんだ市民広場や屋内駐車場などもそうだ。
オランダのエンジニアリング企業アルカディスは、ハリケーン・カトリーナに見舞われたニューオリンズやハリケーン・サンディに見舞われたニューヨークなど、自然災害が起きた米国の都市と協力し、洪水防止策の強化に取り組んでいる(参照「海面上昇でNYは水没確実オランダ人に対策を聞こう」)。
しかし、海面上昇の予測が的中する確率は急激に高まっており、土地の約4分の1が海面下にあるオランダに対してさらに難題をぶつけてきている。国内総生産(GDP)の60%を生み出しているのが、海面下にある地域だという点も重要だ。
大洪水が起こった際には、「大変な事態になるでしょう。国はバラバラになり、経済は崩壊してしまいます」とダイクスマ環境相は言う。「このアルマゲドン的なシナリオはなんとしても食い止めなければなりません」。
オランダは長期的プランを策定しており、インフラ・プロジェクトのために何十億ドルもの資金を確保してある。これらのプロジェクトには、現在行なわれている海岸や内地を洪水の危険から守るための取り組みが含まれる。河口を広げたり、谷を削ったり、砂丘を作ったりすることなどがそうだ。
オランダは、起こりうる自然災害の脅威を食い止め、 エネルギー・システムを大幅に見直すために多額の投資をしている。だからこそ、米国のトランプ大統領が気候変動が事実かどうかに疑いを持ち、パリ協定の離脱を訴えることに、何よりも納得いかないのだ。
「もしそんなことになったとしたら、誰にとっても大打撃です」。ダイクスマ環境相は言う。「米国は世界で第2位の大気汚染者なのです。あえてフランス語で言えば、ノブレス・オブリージュ(高貴なる者に伴う義務)があるのですから」。
(日本版編注:この記事のオリジナルは5月26日に公開され、その後、6月1日にトランプ米大統領はパリ協定からの離脱を発表した)
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クレジット | Images courtesy of the Netherlands Embassy |
- ジェームス・テンプル [James Temple]米国版 エネルギー担当上級編集者
- MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。