トランプ政権の思惑通りにいけば、近い将来、米国政府は領空を飛ぶ無人飛行機をハックして安全保障上の脅威となるかを判断し、撃墜する権限を持つことになる。
ニューヨーク・タイムズが入手した法案の草稿では、政府当局者が新法制定の必要性を訴えている。その理由は非合法なハッキングや監視を禁じた民間機を保護するための現行法が成立した時点で、ドローンは「想定外」だったという点だ。「現行法に基づく有事に対する対処の義務のままでは、技術的な対抗手段のイノベーション、評価、運用が制限される恐れがある。UAS(無人航空機システム)の登場により高まりつつある、特有の治安、国土安全保障の問題に対応できない可能性がある」と草案には書かれている。
小型の一般消費者向け商用ドローンの価格は下がり、性能は向上している。(「米、ドローン規制を29日緩和、日本はチャンスを潰すのか?」参照)。したがって政府がドローンによる安全保障のリスクを懸念するのは当然のことだ。兵器に改造したドローンは言うまでもないが、2015年に制御不能になってホワイトハウスの芝生に墜落したドローンのようなリスクも含まれる。2月、ワシントンポストは、イスラム国(IS)の戦闘員はイラク北部で「武装ドローンを使った攻撃作戦の準備を急ピッチで進めている」と報道した。2011年にはマサチューセッツ州の男が、爆弾を積んだ小型ドローンを利用しペンタゴン(米国防総省)と国会議事堂に対する攻撃を企てたとして告訴された。
草案では、ドローンのハッキング、追跡、撃墜を担当する政府機関や職員、またその手順について明記されていないが、すでに市販されているドローン対抗システムも新法を作らなければ「違法と解釈される可能性がある」と書かれている。 リークされた法案の草稿兼要約文書によると、国防権限法(NDAA)への追記が検討されているようだ。NDAAはペンタゴン(米国防総省)が予算を得るため、毎年議会の承認が必要だ。
ドローンの登場によって新たな規制は不可欠であり、そのためには新法が必要だという議論は長らく続いている。ちょうど先週、連邦裁判所は、米国連邦航空局 (FAA)には消費者にドローンを政府機関に登録するように義務づける権限がないとの判決を下した。ドローン産業の関係者ですら、空の安全を確保するため規制が必要と見なす人は多い。安全上の懸念に加えてドローン登場により、新たにプライバシーに関する議論も沸き起こっている。プライバシーに関しても、草案には明確な記述がない。法律を策定するにあたって「プライバシー、市民権、市民の自由を尊重する」新しい政策が必要になる、との記述はある。しかし、この法制度を施行した結果、訴訟されても、いかなる裁判所もこれを受理する権限を持たないとの記述もある。
まだ解決すべき点は明らかに多いが、トランプ政権は空の新しい脅威に対処するための法改正に、真剣に取り組んでいるようだ。今度は議会が行動を起こす番だ。