石炭と自然エネ、矛盾するインドのエネルギー政策を読み解く
インドは石炭の利用促進と再生可能エネルギーへの移行を同時に進めているように見える。いったい何が起きているのか? by Michael Reilly2017.05.30
最近のインドが打ち出しているエネルギー展望は複雑だ。インドは自然エネルギー投資にもってこいの環境だと思えるし、自国の二酸化炭素排出量削減計画についても大胆な予想を立てている。その一方、ピユシュ・ゴヤル電力相は最近、 インドに石炭火力の使用を回避する義務はなく、「二酸化炭素排気量をストップさせるべきは、米国や西洋諸国からだ」と発言した。
現在、インドは生産電力約14ギガワット分に相当する石炭火力発電所の新設を取りやめようとしているほか、計8.6ギガワットの発電容量を有する既存の発電所についても、近いうちに運用コストが嵩んで維持ができなくなるだろうと警告している。 一体なにが起きているのだろうか。
簡単にいえば、2015年11・12月号の特集記事「インドのエネルギー危機」にも書いたとおり、インドは途方もなく大きなエネルギー問題を抱えているのだ。
インドは、どの国も成し遂げたことのない挑戦をしようとしている。二酸化炭素排出量の急激な増加を防ぎつつ、近代的な工業化経済を打ち立て、 全国民に明かりと電力を供給することだ。高まる電力需要に応えるだけでも、今後30年にわたって年間約15ギガワットずつ発電量を増やしていかなければならない。
将来のエネルギー需要を考慮すれば、一見矛盾して見えるメッセージにも辻褄が合う。インドが将来のエネルギー需要を満たすためにはより大量の石炭火力を必要とし、同時に、太陽光発電や風力発電の導入によるエネルギー容量の大幅な増強も必須、というわけだ。
2016年時点では、インドの総電力生産量 (PDF)の78%を石炭火力発電が占めており、二酸化炭素排出の観点からいえば石炭使用のさらなる増加はあまり良いニュースとはいえない。
だが、ここには思わぬ仕掛けがある。大規模な太陽光発電所の開設に関して最近結ばれた契約を兆候と捉えるなら、太陽光発電のコストは想像以上の速さで急激に低下している。米国の調査機関エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)は、先週投稿したブログ記事の中で、新たな太陽光発電所について合意されたエネルギー価格は2016年比50%近くも低下し、キロワット時あたり4セント以下だったと述べた。
IEEAが認めたとおり、インドでは少なくとも今後20年の間、石炭火力が電源構成の大部分を占めるだろう。しかし事態はめまぐるしく変化しており、再生可能エネルギーは大いに支持されている。昨年12月、インドは今後10年間の国家電力計画 (PDF)を発表した。この計画では2027年までに国のエネルギー容量に占める石炭・天然ガス電力の割合を合計43%まで削減するとしたほか、 再生可能エネルギー導入を進め、再生可能エネルギーによる発電量を合計275ギガワットに引き上げるとの文言も盛り込まれた。
インドが低炭素社会にたどり着くのは、もう少し先のことになるかもしれない。
(関連記事:The Independent, IEEFA, “India’s Energy Crisis,” “気候変動解決の主役にインドと中国が浮上”)
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- マイケル レイリー [Michael Reilly]米国版 ニュース・解説担当級上級編集者
- マイケル・レイリーはニュースと解説担当の上級編集者です。ニュースに何かがあれば、おそらくそのニュースについて何か言いたいことがあります。また、MIT Technology Review(米国版)のメイン・ニュースレターであるザ・ダウンロードを作りました(ぜひ購読してください)。 MIT Technology Reviewに参加する以前は、ニューサイエンティスト誌のボストン支局長でした。科学やテクノロジーのあらゆる話題について書いてきましたので、得意分野を聞かれると困ります(元地質学者なので、火山の話は大好きです)。