「我々は月へ行くことを選択した。簡単だからではなく、いいビジネスだからだ」
ジョン・F・ケネディー(米国第35代大統領)が地球から最も近い惑星に行く構想を述べた有名なセリフをもじっているのは、スタートアップ企業ムーン・エクスプレスのナビーン・ジェーン議長。ムーン・エクスプレスが民間企業として初めて月面着陸を許可されたことについて、ニューヨーク・タイムズ紙の記者にこう述べた。
ワシントンポスト紙も発言を引用して「水は太陽系の石油だ」と掲載しており、明らかに、印象に残る短い言葉でメディアに掲載されることを狙っている。ジェーン議長は、グーグルのルナ・エックスプライズ(GLXP)の優勝賞金2000万ドルの獲得も目をつけている。ムーン・エクスプレスが優勝するには、小型の惑星探査機を月面着陸させる初の民間企業として、惑星探査機を最短500m走行させ、地球に動画を送らなければならない。すでにムーン・エクスプレスは3000万ドルの資金を集めており、追加で2500万ドルも得ようとしている。大がかりな資金調達により、米国、ロシア、中国の政府だけが成功したことに挑もうとしているのだ。
しかし、ジェーン議長によるムーン・エクスプレスの構想において、ルナ・エックスプライズは最初のステップでしかない。より大きな計画は、資源を持ち帰る最後のフロンティアとしての宇宙だ。氷として存在する月の水は、ロケット燃料の材料になる。地球以外の惑星で資源を採掘し、地球帰還用の燃料タンクを安く満タンにできるだけでなく、小惑星帯、火星、その先の惑星にも飛んで行ける。『オデッセイ』を映画で見たり原作小説で読んだりした人は知っての通り、水(H2O)とロケット燃料として使われるヒドラジン(N2H4)は化学的には近い関係にある。だが、化学変化には危険が伴い、ノンフィクションである宇宙飛行のように、リスク回避を最優先する世界で試されたことはない。
ムーン・エクスプレスが地球と月を周回して優勝するには、他にもハードルがある。ムーン・エクスプレスの採用したロケット・ラボ製の流線型ロケット「エレクトロン」は、最初のテスト飛行を済ませていないのだ。また、ムーン・エクスプレスが発射するMX-1着陸船も組み立て終わっていない。
確かに、最初はどの官庁に許可を出す権限があるのか、そもそもミッションを進めると国際条約に違反するのか不明だったので、米国政府の規制当局から承認を得たのは大きな一歩だ。ルナ・エックスプライズの期限は2017年末に迫っており、ムーン・エクスプレスが技術的ハードルを突破すれば、後は発射日を設定するだけ、競合チームに先行できる。
宇宙の資源を回収については、オバマ政権はあらゆる障害を取り除いて、「惑星資源」や深宇宙産業といった小惑星帯での資源採掘の利権を狙う民間の宇宙企業が、地球に資源を持ち帰れるようにしている。可能性のある資源には、プラチナやイリジウムなど、地上では希少な金属もある。
宇宙ベンチャーが盛り上がっている理由は簡単だ。宇宙旅行よりも夢があるのだ。民間企業が正常に国際宇宙ステーションに補給し、再利用可能なロケットを打ち上げ、船内で呼吸できる宇宙船を飛ばせる時代、何でも可能だと信じたくなるし、実装できるかもしれないのだ。
もちろん、ある時点で、十分な資金を持つスタートアップ企業でさえも、損得は考慮しなければならない。予見できる未来で、地球以外の世界での試験採掘を事業化するのはまず無理なのだ。格言好きのジェーン議長にとって、詩人ロバート・ブラウニングの「人は手の届きそうにないところまでも目指すべきなのだ。そうでなければ天国は何のためにあるのか」という言葉は間違いなくひらめきを生むだろう。とはいえ、今のところはジェーン議長が構想を変える必要はなさそうだ。
(関連記事:The Verge, Ars Technica, Washington Post, “Funding of Space Ventures Gets a Lift,” “Luxembourg Wants to Lead the Way in Asteroid Mining,” “Why Would Anyone Want to Mine Asteroids?”)