10年前、マイクロソフトの研究者がビッグデータ時代におけるプライバシー保護への画期的なアプローチを発表した。「差分プライバシー」と呼ばれるマイクロソフトのアイデアを2016年になって史上最大の実地試験をするのはアップルだ。
差分プライバシーは、多くの人から集めた統計データから個人情報を取得できないよう保証する数学的技術だ。アップルは今秋公開予定のiPhoneとiPad用モバイルオペレーティング・システムiOSの新バージョンに、差分プライバシーを導入する。
先週開かれた投資家向けの四半期報告で、アップルのティム・クックCEOは、差分プライバシーによって「個人のプライバシーを損なわずに、理想としてきたさまざまなサービスを提供できる」と発表した。アップルは手始めに、差分プライバシーでユーザーが打ち込んだりタップしたりした文字の傾向を分析し、キーボードの予測変換やSpotlight検索機能の向上に利用する。アップルは、iPhoneで打ち込まれた言葉や絵文字、アプリの中でクリックされたリンク、ノートアプリで検索された言葉などのデータを収集するが、アップルには個人が打ち込んだ文字やどのリンクをクリックしたかは、正確にはわからない。
プライバシーの専門家は慎重な姿勢を保ちながらも期待を寄せており、今回のアップルの動きによって、学問の世界では標準でも、テクノロジー企業にはほとんど浸透していなかった考え方を、他の企業も取り入れざるを得なくなると考えている。
ペンシルベニア大学のアーロン・ロス准教授(差分プライバシーについての教科書を執筆した)は「我々が原則だと考えていたことが取り入れられ、広く実装されることに興奮しています。アップルはプライバシー保護を実装しそれを宣伝することで、製品をさらに魅力的にすることに賭けているようです」と述べた …