コンピューターのイメージングシステムに革命が起きつつある。撮影の原理は、光学ではなく、コンピューターの手法に基づいている。最も偉大なブレークスルーは、単一画素で高解像度の画像や動画を記録できるようになったことだ。研究者はレンズレスカメラや3Dイメージングシステムなどを作るために、単一画素を利用している。
現在研究者はこの手法をさらに進めるべく、人間が外界を見る方法を真似しようと単一画素を利用している。グラスゴー大学デヴィッド・フィリップス研究員のチームは、単一画素によって、中心部の解像度が高く周囲の解像度が低い画像を作り出す方法を発見した。 これは動物の視覚系を正確に真似している。動物の目の網膜には中心部に黄斑という光の感受性が高い所があり、その周辺部は解像度が低くなっているのだ。
フィリップス研究員のチームはさらに、黄斑に捉えられる領域が、視野の中で対象を追ってどう動くかまで明らかにした。未来のイメージングシステムを変えるポテンシャルを持った手法だ。
初めに背景について若干説明しよう。単一画素イメージングシステムでは、ある光景からの光を単一の点で記録する。この光は何らかの方法でランダム化しなければならない。たとえばすりガラスに通したり、ランダムに配置されたマイクロミラーアレイに反射させたりする。
ランダム化された光を単に記録するだけでは、ほとんど何も得られないのは明らかだ。鍵になるのは、単一画素の画像をたくさん取り込むことだ。それぞれのデータ点はランダムな光のサンプルに過ぎないが、連続したデータ点は互いに関連している。これらのデータはもともと同じ光景を反映したものだからだ。
このコンピューターイメージングの背後にある本質的な技術は、連続したデータの関係性を見つけるためにデータマイニングのアルゴリズムを用いることだ。わずかな計算で、元の光景が再現できる。
画素が記録をとる度に毎回光が適切にランダム化されてさえいれば、この技術はかなり簡単に動作することがわかった。最終的な画像の解像度は、用いたデータ点の数によって決まる。
言い換えれば、各データ点は最終的な画像の一画素分を記録したものとみなせる。このアイディアによってフィリップス研究員は画像の解像度を変えられた。
フィリップス研究員はデジタル・マイクロミラーアレイを使って、単一画素の光検出器に届く光をランダム化する。さらに、このアレイを使えばランダム化の解像度も制御できる。つまり最終的な画像の解像度を高めるために、風景の一定部分に高解像度のランダム化を施せる。これこそ黄斑に映し出される画像である。
マイクロミラーアレイは、1秒間に約1万のランダム化されたパターンを映し出せる。それによって32×32ピクセルの画像を1秒間に約10毎生成できる。
初め、32×32ピクセルの画像内で各画素は四角くて同じ大きさをしている。 しかし黄斑に映し出される画像の画素は、その周辺部よりも小さくて密集している。
フィリップス研究員は光景からの光をランダム化することで画像の中心部を高解像度にした。結果は印象的だ。フィリップス研究員のチームは最終的に画像中央部の解像度が周囲より高くなることをはっきりと示した。
「私たちは次のことを実証できました。コンピューターイメージングにおける単一画素のデータ収集能力は、動物界で広くみられる適応的な視覚システムを模倣することで強化されるのです」
さらにフィリップス研究員は、黄斑が対象を追跡するために連続する画像から画像へとどのように移動できるかについても示した。また、1つの画像内で2つの別な物体を追うために黄斑を2つ持つ方法についても示した。これは動物界の能力を超える技術である。そして可視光だけでなく赤外線を利用する技術さえも示した。
この発見は重要な応用への可能性を秘めている。最も明らかなのは、画素アレイが実用的でないようなイメージングシステムへの応用だ。例えば、単一画素はテラヘルツの周波数にも対応できるが、画素アレイはできない。
しかも単一画素の技術はさらに一般的な応用が可能だ。あらゆるイメージングシステムにおいて、解像度とフレームレートはトレードオフの関係にある。単一画素の技術であれば、このトレードオフを逃れて解像度を最適化できる。一番大事な画像の特定部分に焦点を合わせて、解像度を高めればいいのだ。
単一画素の技術はマシン・ビジョン技術のアルゴリズムと組み合わせることで、ずっと強力になるかもしれない。マシン・ビジョンはたとえば顔や物体認識などで、すでに人間の視覚を超え始めている。
人間や動物は長い間、視覚において機械より優れていた。単一画素のような新手法の出現で、この優越もそう長くは続かないだろう。